「国際協力11月号の「教えて!世界のニュース」No.17 CHECHNYA に、
ジャーナリストの常岡浩介氏が「チェチェン:戦争とテロ事件」という文を
寄稿している。

 「掃討作戦(ザチストカ)」というコラムでは、
「イラク戦争やパレスチナ紛争などに比べて、チェチェン戦争は犠牲者の数が
 けた外れに多いにもかかわらず、あまりニュースにならず国際社会の関心が
 低いといわれる。これは、ロシアが徹底した情報統制を行って報道関係者を
 チェチェンから閉め出し、チェチェンで起こっていることが世界に知られない
 ようにしているためだ」
「村の10〜65歳までの男性を全員連行し、その過程では略奪や強姦が頻繁に
 行われる。連行された村人は選別収容所(フィルターラーゲリ)と呼ばれる
 強制収容所で拷問を受け」
「多くが拷問で心身障害者にされる」
「チェチェンで一般市民の犠牲が広がっている背景は、こうした掃討作戦の
 結果だという」


 チェチェン戦争が終わらない理由には、
@チェチェンの独立がロシア連邦の崩壊につながる恐れがあること
Aカスピ海の海底資源をめぐる米露の利権争いに利用されていること
Bチェチェンに派遣されたロシアの将軍らが、チェチェン人からの略奪や
 地元産出の原油から不正に利益を得ているため、終戦を望まないということ
 という3点を挙げている。

@について、
 現在では、その可能性は低いと思う。ソ連崩壊直後は、その恐れもあったが、
その後、CIS諸国、ロシア内自治共和国とも、
 ・西側の支援は思ったほどではなかったこと
 ・結局は、ロシアの経済的支援抜きには、やっていけないこと
 ・現実にはロシア連邦内への出稼ぎが国家財政の数割を占めること
 これらのことを現実に学んだと思う。
 したがって、そう単純に「ロシア連邦の崩壊」というわけではないと思う。

Aについて、
 バクーからのパイプラインについては、グルジアに親米政権が成立したことも
あり、グルジア経由のBTCラインに落ち着きそうである。
 ロシアとしては、むしろカスピ海カザフスタンでより巨大な油田(カシャガン
油田)が新たに発見された為、カザフスタンの石油をロシア国内経由で西側に
送ることの方が、現在では、より戦略的に重要になっていると思う。
しかも、バクーからのパイプラインは、チェチェン迂回ルートも完成している。
ちなみに、あまり稼動していないようだが。
つまり、「現段階におけるカスピ海資源を巡る米露の角逐」にとって、
チェチェンはもはや基本的には、無関係になっていると思う。

Bについて、
 これは、現段階では、最も主要な要因だと思います。
 チェチェン内産出の原油は、石油大国ロシアにとっては、微々たるものでは
ありますが、将軍達がカスピ海沿岸に別荘を建てる等の私腹を肥やすには充分
だからです。
(ロシア国内の年間石油採掘量は6億トン、チェチェンの150万トンは微々たる
 ものに過ぎない:チェチェンの資源喪失はロシアの軍事行動の原因ではない
 ことは明らか)


 これこそが、<チェチェン やめられない戦争>の現段階における最大の理由
だと私は思っています。

 チェチェンからの略奪ももはや限界にきているのではないかと思っています。
そもそも貧しいチェチェン人から、収奪できる源も限界なのではないでしょうか。
アンナ・ポリトコフスカヤの「チェチェン やめられない戦争」にも、もはや
これ以上の収奪は難しいので、その矛先を同じロシア人や、隣国のイングーシ
共和国へと向け始めているという叙述がありました。


「この戦争が終わるかどうかは、国際社会がプーチン大統領の意思を変えられる
 かどうかにかかっている」と述べている。

しかし、その展望はまり良くないと私には思われる。というのは、プーチンは、
@石油・天然ガスの輸出好調を背景にロシア経済を立て直してきたこと
Aチェチェンへの強硬な「対テロ政策」も高支持率で支持されていること
B「強いロシア」への復活を望むロシア・ナショナリズムの高揚
Cその他
 これらの要因によって、現在、プーチンの支持率は高い。
従って、プーチンは、「対テロ政策」を変更する必然性は低いと思う。
むしろ、チェチェンへの強硬姿勢を通じて自らの権力基盤を固めてきたとも
言えると思う。(国民の支持と軍部の支持を得てきた)

 9・11以降は、ブッシュの「対テロ戦争」に便乗し、西側からのチェチェンへ
の同情・支援ムードも、むしろ低下してしまったと思う。

 もちろん、常岡氏の言うように、99年のモスクワ連続アパート爆破事件は、
プーチン=FSB(旧KGB)の政治的謀略の可能性も高いと思う。

しかし、余り希望的観測ができない、むしろ絶望的な、チェチェン情勢にあって、
 ”この悪循環を断ち切る何か”が私には全然見えてこない。

私としては、敗北主義と言われるだろうが、一旦、ロシアに軍事的に敗北を認め、
もう一度、チェチェンという国そのものを根本的に立て直さないと、チェチェン
民族そのものの民族的再生産ができないのではないか、と思い始めている。
 戦争しか知らない子供達、ロシアへの怨念しか醸成されない子供達、
 もう長年、学校教育そのものが、ほぼ崩壊している。
 こんな状況では、チェチェン民族の文化・伝統の継承そのものが、不可能に
なりつつあるのではないかと思い始めている。

「チェチェン:戦争とテロ事件」常岡浩介(国際協力11月号)