「「拉致」異論」(太田昌国)太田出版1700円)

 2002年11月21日、札幌市中央区にある西本願寺札幌
別院に、戦前・戦中に強制連行された朝鮮人と中国人の多数の
遺骨が、人名・死亡月日・本籍・徴用先の日本企業名などが
書かれた102人の名簿と共に保管されていることがわかった
遺骨は保管の過程で合葬されており、一人ずつの識別はでき
ない。遺骨はかつて一人分ずつ木箱に収められていたが、一部
は1948年に、また21人分は徴用先の企業である地崎工業
(本社・札幌)の責任において1997年に、遺族の了解を得
ることもなく合葬されていた。
 同年12月6日、西本願寺札幌別院責任者は記者会見を行い
、「遺骨を遺族に返す努力をせず、さらに合葬によって遺骨の
個別性が失われたことをおわびする」と語り、自らが主体となって
遺族の消息調査や遺骨の返還に努力することを明らかにした。
 このニュースは、地元の「北海道新聞」が詳しく扱い、11
月23日には「「人権」が問われている」と題する社説を掲げ
た。強制連行・戦後補償の問題が未解決であることは日本社会
の責任であり、この社会ではいま「北朝鮮の拉致被害者の遺骨
や墓地に対する非人道的な扱いに対し、非難が噴出している」
が、「わが身も正さなければならない。今後、北朝鮮との交渉
で、説得力を持つためにも、札幌別院や朝鮮人労働者の徴用先
だった企業はもとより、政府も誠心誠意、身元の確認や遺骨の
返還に努力する必要がある」と論じた。
 西本願寺は、その後2003年2月4日、「戦争に協力した
過去もある教団として、非戦や平和のためにできる限りのこと
を行なう」との考えから、西本願寺の直属寺院として全国に
45ある別院に対し、朝鮮人とみられる遺骨や名簿など関連
資料の有無について、詳細な報告を求めることにした
(「北海道新聞」2003年2月5日付)