「破戒」と島崎藤村

 島崎藤村の「破戒」は、明治39年に自費出版されました。
全国水平社の結成が大正11年ですから、部落問題を真正面から
見据えた「破戒」の先駆性は明らかです。
 昭和14年に「破戒」の改定本が出版されました。島崎藤村と
全国水平社との協議による改定でした。
 「破戒」の差別的表現を訂正したとのことです。
 確かに初版「破戒」には、種々の差別的表現がありました。
「穢多、非人、かたわ、気狂い」等の。
しかし、それを訂正すると、かえって、部落差別を糾弾する
作品のインパクトが明らかに低下してしまい、改悪でした。
そして、昭和28年、初版本が復原されます。
しかし、部落解放同盟は、
1.何の解説もない、単なる初版本の復元はおかしい
2.部落民と解放運動を考慮していない
 というものでした。
 「破戒」には、確かに「差別的要素」は、あると思います。
・差別用語
・丑松が、穢多だということを隠していたことを、土下座して
 謝る。アメリカへと旅立つ=逃避
・解放運動家の猪子連太郎の台詞:「いくら我々が無智な卑賤
 しいものだからと言って」の問題点

 しかし、まあそれは、何というか、無いものねだりという気がしてなりません。
まだ、部落解放同盟はおろか、全国水平社すら無かった時代のことですからね。
時代的制約というものが、時代的限界性というものが確かにあるでしょうね。
むしろ、その先駆性をこそ賞賛すべきだと思われてなりません。