チェチェンのバサーエフ司令官にロシア人ジャーナリスト・
アンドレイ・バビツキー氏がインタビューした内容を米ABCに持ち込みました。

<貴方は世界で二番目にお尋ね者のテロリストです。
 これまでどうやって生き延びてきたんですか>
「まず第一に、私は二番目などではありません。
 第二に、私はお尋ね者ではありません。
 私自身ロシア全土でテロリストを見つけ出そうとしているんです。
 これからもテロを探し出し、罰を下していきます。
 私の方が追われる身だなどと言ってもらっては困ります。
 私はテロを探し出す立場にあるんです」

<もし貴方が望むように、ロシア軍がチェチェンから撤退したら、
 誰がチェチェンの指導者になるんでしょうか>
「まず頭に浮かぶのは、国民に力をという言葉です。
 私自身、権力を手に入れようと思ったことはありません。
 権力の為に戦ったことはありません。いつも正義の為に戦ってきました。
 正義だけが私の目標です。
 率直に言って、私は自分が追われる身だと少しも感じていません。
 私は戦争に身を投じる戦士です。今この場で死んでも悔いはありません」

<貴方は本当にテロ行為でロシア政府が譲歩し、
 交渉に応じると考えているんですか>
「交渉など必要ありません。
 チェチェンの人々に対する虐殺行為を止めさせたいだけです。
 チェチェンを占領する人間の屑を追い出したいだけです」

「チェチェンのこれからの世代の人達が1944年のように、
 シベリア送りの憂き目に遭わないという保証が欲しいんです。
 その為に独立する必要があります。
 あれが虐殺行為だったことは全世界が認めています。
 テロリストはロシア人の方です。
 チェチェンの独立を目指す闘争はこれからも続きます」

<ベスランで起きた学校占拠事件ですが、あの時の作戦の目的、
 プーチン大統領の採った行動をどのように評価しようとも、水も与えず、
 子供達の命を危険にさらしたのは、正しいことだったと言えるんでしょうか。
 貴方は、プーチン大統領と同じように、子供達の命について責任があったとは
 思いませんか>
「何故私にプーチン大統領と同じ責任があるんですか。
 チェチェンの子供達四万人以上が殺され、何万人もが怪我を負ったんです。
 そのことについて声を挙げてくれた人はいますか」

<ではロシア人の子供達にも責任があるということですか>
「子供に責任があるとは言っていません。
 ロシア国家全体が責任を負っているんです。
 暗黙の了解は事態を肯定していることに他なりません。
 ロシアは国を挙げてチェチェンを破壊する侵略者を養っています。
 食べ物を与え、税金を払い、言葉の上でも賛成しているような奴らには、
 みんな責任があります。
 ベスランでは正直言って、あんなことになるとは思っていませんでした。
 問題は、チェチェン紛争を終わらせるか、プーチン大統領を辞任させるか、
 どちらかでした。
 その二つの内、いずれかの要求が受け入れられれば、
 無条件で人質を全員解放する筈でした。
 何故あんなことをしたのかと聞かれるかもしれませんが、チェチェンで
 何千人もの子供や女性、お年寄りが殺害されるのを止めさせる為でした。
 事実に目を向けて下さい。誘拐され、連れ去られて、殺されているんです」

<つまり、直接撃たなければ、何の問題もないということですか。
 子供の命を危険にさらすのは、殺害に関与するのとは、別のことだと
 言うんですか>
「虐殺行為を止めさせる為には手加減する積もりはありません。
 ただし、私が信じる宗教の許す範囲でです。
 私の宗教では、コーランの中で、アラーは、相手にやられたように、
 やり返せと教えています。
 ただし、一線を踏み越えてはなりません。
 私は一線を越えないようにしています。
 これまでも踏み越えたことはありません」

<学校占拠事件の後、貴方はどんな気持ちになりましたか>
「率直に言って、ショックを受けました。
 誓ってもいいですが、あんなことになるとは思ってもみませんでした。
 プーチン大統領が、あそこまで血に飢えているとは思わなかったんです。
 奴が血に飢えた欲望をむき出しにするとは思わなかったんです。
 あそこまで深刻な状況に直面すれば、ガスか何かを使って、
 事態の打開を図るだろうと思っていました。
 少なくとも、子供達には手出しはしないだろうと。
 容赦ない攻撃をすれば、相手もすぐにメッセージを真に受けるだろうと
 踏んでいたんです。うまくいくと思っていました。
 しかし、いまだにメッセージが身に沁みていないようです」


 バビツキー氏は、
『私はバサーエフ司令官に、学校の建物の中で起きた爆発について聞きました。
 ロシア軍突入のきっかけとなった出来事でした。
 司令官の話によると、チェチェン武装グループのメンバーが体育館の中で、
 爆発物の起爆装置を足で押さえていました。
 そのメンバーが、ロシア兵に狙撃されたんです。
 足を外すと爆発するようになっていました。
 それで爆発が起きてしまったということです』


<飛行機の爆破については、どうなんですか>
「爆破したと誰が言ったんですか。
 爆破したという事実はどこにあるんですか。
 奴らが爆破したのではないと、どうして言えるんですか。
 そういう風に考えたことはないんですか。
 要求はいつも通り、戦争を終わらせることでした。
 それなのに、どうして私達のせいだと言えるんですか」

<では、ただ飛行機をハイジャックしただけだと言うんですか>
「航空機をハイジャックして、戦争の終結を要求しようとしていたんです。
 何らかの反応があるまで、着陸を拒否することになっていましたが、
 すぐに撃ち落とされてしまいました。
 私達がハイジャックをすれば、あんな風に爆破したりしません。
 二機がほぼ同時に爆発したのも、おかしな話です」


「2004年の1月に、私は公式の声明を出しました。
 ロシア軍が国際法に則り、態度を改めると正式に発表すれば、
 我々もロシアの領土に対する全ての攻撃と爆破行為を中止する
 という内容の声明です。
 そうすれば、ここチェチェンに残るロシア軍だけを相手に戦っていく
 という公式の声明を出したんです」


「確かに、私は悪党です。テロリストです。でも奴らはどうなんですか。
 憲法に定められた秩序を守っていると言うなら、
 テロを取り締まっていると言うのなら、
 そうした全ての合意や、響きの良い言葉に私は唾を吐き掛けてやります」


 <私の感想>
 バサーエフの無差別テロという闘争戦術・闘争形態・方針を認めることは
絶対にできません。
しかし、バサーエフの現状認識は、だいたいにおいて否定できません。
つまり、ロシア軍による、チェチェン人一般民衆への抑圧、虐待、虐殺は
続いているのだと思っています。


 バサーエフとのインタビューを全米で放映できるなら、
ビンラディンとのインタビューも全米で放映できない理由はないのではないか。
私にはそう思えます。
たとえ、容疑者、犯罪者であれ、その言い分を伝えること自体はできると
思います。

「Reign of Terror」:米ABC NIGHTLINE:バサーエフ・インタビュー (2005.7.29 NHKBS)