ウクライナ大統領選第一回の投票では、
 ユーシェンコ候補 :39.9%:親欧米
 ヤヌコービッチ候補:39.3%:親露

ロシアと国境を接し、重厚長大産業が集中する東部はヤヌコービッチ候補が優勢
今年EUに加盟したポーランドなどと国境を接する西部はユーシェンコ候補が優勢

 ユーシェンコ候補は、将来的にはEUやNATOへの加盟も視野に入れて、
民主化や経済改革を推進させ、ヨーロッパとの統合を目指しています。

 西部の古都リビウでは、ユーシェンコ候補が87%の得票。
リビウは第二次世界大戦直前、独ソの秘密協定で、
ポーランド領からソ連領に組み込まれました。
 リビウは、旧ハプスブルク王朝の建物も多く残っており、
街並みは、旧ソビエトというより、ヨーロッパの趣きです。
 市民の意識もヨーロッパとの繋がりが強く残っています。
 
 市内には、19世紀クリミア戦争時に、義勇軍を作り、ロシアと戦おうとした
ポーランドの国民的詩人ミツキェビチの銅像が建てられています。

 11月上旬、リビウ市内では至る所に、黒い喪章の付いた国旗が
掲げられていました。
 1930年代、スターリンの農業集団化によってウクライナ西部で
数百万人が死亡した大飢饉の犠牲者を追悼する為です。
 この地方で普段ロシア語を話す人はほとんどいません。
ソビエト時代はロシア語で授業が行われていましたが、
今は、家庭で普段使っているウクライナ語で授業が行われるようになりました。
ロシア語はあくまで外国語として教わっています。

 ある縫製工場は、英仏などの注文が相次ぎ、売上げは倍以上に増えました。
 EU拡大でポーランドなどの賃金が上昇したことから、EUからの服飾製品の
注文は、より賃金の安いウクライナ西部へと向かうようになったからです。
ポーランドと比べて賃金が四分の一以下のこの地方はEUと隣接する
新たな生産基地として注目されています。

 
 東部、ドニエプル・ペトロフスク州、地元産出の石炭・鉄鉱石で製鉄業。
ソビエトの鉄鋼の30%余を生産し、鉄の町と呼ばれてきました。
ブレジネフの出身地。
ソ連時代、この地方の重工業は国家から手厚い保護を受けてきました。
町には今でもレーニンやブレジネフの銅像が残されています。
博物館にはブレジネフの偉業を讃える展示が掲げられていました。

 この地方は、ウクライナというよりは、重厚長大産業を抱える旧ソビエトの
典型的な工業の町として発展してきました。
 この地方では、独立後も、ロシア系住民だけでなく、ウクライナ系住民も
ソビエト時代から慣れ親しんできたロシア語を普通に使っています。
授業をロシア語だけで行う学校も運営されています。

 鉄鋼業も息を吹き返し、原油高で好調な経済が続くロシアからの注文が相次ぎ
ロシアとの取引が会社の命運を左右するまでになっています。
世界的に鉄鋼の需要が逼迫していることもあって、この地方のロシアへの輸出も
去年と比べて倍近くに増えました。


 プーチン大統領は何度もウクライナを訪れ、ヤヌコービッチ候補を支援し、
欧米は選挙の不正を警戒し、国際基準に達していないと指摘。
ポーランド外相は欧州会議閣僚委員会議長として公正な選挙を期待と表明。
ブッシュ政権は選挙監視団長を派遣。

 決戦投票は週末に行われます。



             「混迷続くウクライナ」NHK・BS

 NHKモスクワ支局の石川記者は、
 ロシアには、欧米は、ロシアの周辺に、グルジアのように、革命的な手段に
よって反ロシアの政権を樹立しようとしているのではないかという不信感があり
ます。
 ロシアにとってウクライナの重要性はグルジアの比ではありません。
 プーチン大統領が何度もウクライナ入りしたのは、欧米に対して、
ロシアの持つウクライナへの戦略的利益・関心・関与を示したものです。

 そもそもユーシェンコ元首相もヤヌコービッチ首相も共にクチマ政権の下で、
首相に付きました。
 この10年間のクチマ政権の方向を見れば、ウクライナの政治エリート層が合意
している国家戦略を見れば、目標はウクライナのEU加盟であり、将来的なNATO
加盟であり、同時にロシアとの戦略的な関係を両立させることです。
 従って、どちらの候補者が勝ったとしても、ロシアとの関係は重視するし、
同時に欧米との統合を進める路線を採るでしょう。
 今回の選挙はウクライナの政権エリート内部での権力争いという側面と、
腐敗したクチマ政権に対する体制変革の下からの動きというウクライナ内部の
政治対立の構図であったものを、西か東かという外交的な選択の構図に変えて
しまった。
 このことは、プーチン政権の外交的な大きな失敗だという指摘はロシア国内で
も出ています。

 ロシアの恐れるのは、グルジアのような革命的な変革のプロセスに向かうこと
です。
 憲法の枠内で解決策が見つかることを望んでいます。
たとえ選挙の無効、やり直しになっても、憲法の枠内であれば、それを受け入れ
るでしょう。
 欧米が調停者としてではなく、グルジアのような革命的なプロセスに一方的に
肩入れする場合は、ロシアの対応は、グルジアの時と比較にならないくらい厳し
いものになるでしょう。
 
 歴史的には、ウクライナとロシアはキエフ・ルーシという共通の国家を起源と
しており、西ウクライナを除いては、宗教的にも文化的にも経済的にも切り離せ
ない関係があります。
 軍事面でも、アメリカのミサイル防衛でも数十年に亘って阻めない新型の
ミサイルの開発・配備を進めています。
 そのロシアの核戦力にとっても、旧ソビエトでの最大の工業地帯であった
ウクライナ東部の軍需産業が切り離されることは、大きな打撃となり、
ウクライナに反ロシアの政権が誕生することにより、ロシアの核戦略にとって
極めてセンシティブな重要な軍事情報がアメリカに流れるのではないかという
疑いさえ持っています。



                「ウクライナ:深まる対立」NHK・BS

・27日ウクライナ最高会議は選挙の無効という野党側決議案を採択:
   (法的拘束力はない)
・28日ヤヌコービッチ氏は、東部地域連合設立を検討:
   (中央からの分離・独立の動き=野党側への牽制)
・野党側はクチマ大統領に29日までにヤヌコービッチ首相の解任を要求

 双方が全面対立、妥協の姿勢を見せず

・ウクライナ最高裁判所で審理開始

 平成国際大学助教授の末澤恵美女史は、
(OSC国際監視団員としてキエフに滞在)
・国営放送が野党側に回ったのは象徴的な出来事
・東西二者択一が強調されすぎている
・野党側は民主化・改革要求に立ち上がったわけで、
 反ロシア・反東部という闘争を展開するのが目的ではない
・それを東西分裂の問題、ロシアかヨーロッパかという問題とすると、
 問題の本質を摩り替えられてしまう
・もともとは、クチマ現政権の腐敗をただすのが運動の始まり
・東西の文化・伝統・宗教・言語の違いは、今までもあった
・両陣営のデモが平和共存している
・選挙への当局による圧力があった
・工業中心地の東部なしで西部の自立は難しい
 西部にとっても分裂は良い選択肢ではない
・東部が求めているのは自治権の拡大・連邦構成共和国への
 格上げであって、分裂・崩壊を望んでいるわけでない
・プーチン自身が、欧米・NATOとの関係改善・歩み寄りを望んできた
 ただ、欧米がウクライナの体制を変えることまでは望んでいない
・NATO・EU側も、現段階でのウクライナ加盟を望んでいない
・「東西分裂」「新冷戦」は言いすぎ
・本来の目的であった民主化・改革要求が隠れてしまう方が問題
・NATO・EUが望んでいるのは、ウクライナの民主化・改革であって、
 流血・暴動という事態になれば、対ウクライナ政策の失敗
・ロシアもまた決定的な欧米との対立を避ける
・クチマ現大統領は東部住民に対して分離・独立を批判している
・落とし所としては、連立政権の発足という政治的解決

「東西に揺れるウクライナ大統領選挙」NHK・BS