筆者は、95年、バサエフと会見しています。
「攻撃は最大の防御」という考え方をする人物だと評しています。

 <何故、北オセチアが狙われたのか?>
「単にチェチェンからから近いので人脈や地の利もあり、計画的な作戦を
 行ないやすかったのが本当のところではないか」と分析しています。

 99年9月のバサエフ率いる部隊の隣国ダゲスタン侵攻部隊の数は、三千人と
述べています。

 チェチェンとグルジアの「雪の山岳地帯では、赤外線センサーなどのハイテク
 装備を持つ側のほうが圧倒的に有利だ」
「少数のゲリラ部隊が山越えすることでさえも難しくなっていた」

 92年から93年にかけて、グルジア内で、ロシアの支援するアブハジアに、
「ロシア軍の尖兵となってアブハジア側につきグルジア軍を撃退したのが
 チェチェン人部隊であり、その中にバサエフがいた」

「2001年には、グルジア政府支援のもとにチェチェン人部隊がアブハジアへ侵攻
 している。このアブハジア侵攻作戦のチェチェン人司令官ゲラエフは、数年前
 にはバサエフらとともにアブハジアを支援してグルジアと戦っていた。数年前
 の敵と手を組んで、かつての味方を攻撃したのだ」

「チェチェン人が決して一枚岩で団結しているわけではない点も知っておいた
 ほうがよい」 
 チェチェン人の「派閥などによる分裂ぶり」
「ただ、チェチェンの敵ロシアは強大すぎるので、独立派同士の戦闘には至って
 いず、その分裂が表に見えないだけである」

「グルジアやアゼルバイジャンなど近隣諸国からチェチェンへ入るルートは標高
 3千メートル以上のカフカス山脈越えとなるため、ロシア軍の国境監視をかい
 潜ることも難しく、補給・連絡ルートとしては機能していない。近代戦では、
 ハイテク装備を持っている側のほうが自然環境の厳しい中で有利なのだ」

 <では、どこから武器を手に入れているのだろうか?>
「ロシア側からである」
「この戦争の複雑な点は、チェチェン武装勢力の最大のスポンサーはモスクワだ
 ということにもある」
「モスクワでマフィア的なビジネスをしているチェチェン人実業家が武装勢力に
 資金援助をしている」
「その資金で、ロシア軍から闇市場に流れた武器などを買うのだ」

「戦闘現場でも、軍事作戦が金で左右される例はある」
「包囲網からの部隊の脱出を黙認させるのは、10万〜20万ドルだろう」

 北オセチア事件にバサエフが犯行声明を出したことについては、
これが、チェチェンとの戦いを国際テロ組織との戦いにすり替えようとする
ロシア政府に対して、ロシアと戦っているのは、国際テロ組織ではなく、
チェチェン独立派だと通告したことになると分析しています。

 確かにそういう意味もあるとも思いますが、明らかにデメリットの方が
大きすぎると思います。
 これで、独立派武装勢力全体が全世界から指弾されます。
マスハードフ大統領は、もちろん、事件に関与していないと思います。
更には、バサーエフを刑事罰として裁くと宣言しています。
だからといって、独立派全体へのダメージは計り知れないと思います。

「武力による抵抗を続け、チェチェンからロシア軍が撤退する日がきたとしても
 チェチェンには廃墟になった国土と戦争後遺症に疲弊した人々、憎悪や不信感
 が残るだけである」


 常岡浩介氏は、自らのサイトで
http://www2.diary.ne.jp/user/61383/#1094211007

「結論を読んだところでやれやれと苦笑する。
「チェチェン人はこの300年間、何も学ばず殺し合いだけを繰り返した
 愚かな民族」というのが、加藤さんの結論だ。
 もちろん、チェチェン人よりも要領のいい、歴史の中で
 賢く立ち回ってきた民族は、いくらもいる。
 ロシアや英国などの列強が征服して来ても、すばやく取り入って、
 屈服しつつも実利を取りこぼさない人たちだ。
 都会的なセンスを持ち合わせた世渡り上手で、チェチェン人のような
 険しい山岳地帯のどいなかに取り残された頑固者とは雲泥の差だ。
 それで、彼らはもちろん賢く、チェチェン人は愚か…それで話は終わり。
 そんなことは最初から分かりきっている。
 チェチェン人やアフガン人のように、歴史の中で上手に立ち回れない、
 要領の悪いがために、常に辺境に押しやられ、少数派となり
 常に侵略に晒される民族は世界各地にいる。
 その上でどうすりゃいいの、というが今の問題なのだ。
 そういうアフガン人の戦いは、現実にはソ連崩壊に繋がった。
 加藤さんが言いたいことは、
 「彼らはバカでした。賢い私たちは関係ありません」ということなのか?」

 と、書いています。

「チェチェン人はおろかな民族」というのが、加藤さんの結論、とした上で、
常岡氏は、かなり罵倒しているように思えますが、私は加藤氏の文章に
納得するところも多いです。
 どこがどう納得できないのか、内容的に批判すればよいと思うのですが、、
 チェチェンの事情に詳しい常岡氏が、加藤氏の文章を内容的に批判してくれれ
ば、私にも、その批判が理解できるかもしれません。

 むしろ、チェチェン人を「要領の悪い民族」として説明する方が、表面的、
現象的な説明だと感じます。

そのような説明ではなく、もっともっと現実分析する方が有意義だと思います。
例えば、
・ドゥダーエフは、どういう分析、展望を持っていたのか、
 また、それが何故うまくいかなかったのか、
 その根拠は何か、
・マスハードフは、第二次チェチェン戦争前に、なぜイスラム原理主義過激派を
 逮捕・拘束しなかったのか、できなかったのか、
 その根拠は何か、
 イスラム穏健派(スーフィズム)多数派と連合し、イスラム原理主義過激派を
 国外に追放するべきではなかったのか、
 なぜ、できなかったのか、
・現在、ことここに至って、マスハードフが、取るべき道は何なのか、
 一般国民の現状に鑑み、即時停戦するために、どこまで譲歩するべきなのか、
 
 等々、、、

「チェチェン人からみた「プーチン」」加藤健二郎(新潮45 11月号)