モスクワ劇場占拠事件で、武装勢力から交渉役に指名されたロシア人ジャーナ
リスト・アンナ・ポリトコフスカヤは、北オセチアの現地に向かう飛行機の中で、
何者かに毒物を盛られました。
幸い一命は取り留めましたが、現地には辿り着けませんでした。

 劇場占拠事件の時、ロシア軍の撤退を要求する武装勢力に対して、妥協案とし
て、「全面撤退ではなく、チェチェンのどの行政区域でもいいから、ロシア軍が
撤退を始める。その動きを第三者が確認した時点で人質を解放するというもの
でした。この妥協案を犯人たちは受け入れました。」


<私が温めていた解決策>
「今回私が温めていたのは、犯人グループがチェチェン独立派のマスハードフ
 大統領と会談するよう仕向けることでした。マスハードフ大統領が犯人グルー
 プと会う意思があることを確認しています。マスハードフ大統領は犯人グルー
 プに対して、まず子供たちから解放するよう申し入れるはずだったのです。」
「マスハードフはロシア政府が自身の身の安全を保証しなくても、ベスランに
 行って犯人グループと交渉する用意がある」とメッセージ
「特殊部隊と犯人側との衝突そのものは、いわば偶発的に起きたものと推測され
 ます。しかし衝突の遠因は、人質の家族たちに学校内部の情報が隠蔽されて
 いたことです。そのため業を煮やした住民たちが武装して現場に乗り込んで
 しまい、悲劇を生んだのです。」


<犯人とアルカイダは無関係>
 ロシア当局は、実行犯の中にアラブ人が10人いたとか、アルカイダ等の国際
テロ組織が関与と発表していますが、犯人グループと交渉し、26人の人質を解放
させたアウシェフ元イングーシ共和国大統領は、「犯人は訛りのないロシア語か
カフカス訛りのロシア語を話した」と言っています。
つまり、犯人グループは、ロシア人、イングーシ人、チェチェン人、オセチア人
のいずれかということになります。


「チェチェン人にしてもイングーシ人にしても、戦闘員の多くは、前述のフィル
 ター・ラーゲリ(簡易強制収容所で拷問が行われている)からの帰還者です。
 蛮行がさらなる蛮行の連鎖を生んでいるのです。」

「チェチェン問題は、暴力的弾圧ではなく、政治的交渉によってのみ解決します。
 マスハードフ大統領一派と話し合いを持つことです。」

「死を賭して報じるチェチェンの悲劇」:アンナ・ポリトコフスカヤ(月刊現代11月号)