2002年のモスクワ劇場占拠事件
 ロシアの使用した特殊ガスの為、人質129人が死亡

・特殊部隊の強行突入は正しかったのか、
・特殊ガスの使用は正しかったのか、
 という遺族達の疑問の声は、「対テロ戦争」という名の下にかき消された。

 ある女性生存者は、武装勢力の女性と会話し、「妊娠中の女性が爆薬を腹に
巻き付けるなんて、余程酷い目に遭ったに違いありません」と語っていた。 

 ロシア唯一の独立系ラジオ局「モスクワのこだま」編集長アレクセイ・ヴェネ
ジクトフ氏は、「モスクワ劇場占拠事件はロシアにとっての9・11」
人質達は、携帯電話から、このラジオ局に電話していました。
「モスクワのこだま」は、ロシア権力に屈することなく、人質の声を放送し続け、
特殊部隊によるガス使用を最初に報じました。
「プーチン政権の弱さを露呈」:「プーチン政権は、自分達の非を認めず、謝罪
 もせず、事件について多くのことを隠しました。それが弱さなのです。」
「この事件によって、皆が、これは、戦争だと覚悟すべきだと理解した。」

 ある人質の女性は、劇場内から、携帯電話で、
「私たちは世論の支えが必要です。皆さんが興味を失えば、軍は強行突入して
 くるでしょう」と訴えていた。

 編集長は突入部隊アルファの士官数人とも話しました。
「ガスは眠らせる為のものだと聞いていた。」
「特殊部隊が予想していたのは銃撃戦で、ガスで死んでいく人に対する準備は
 できていませんでした。人々はただ眠っているはずだったのです。」

 遺体は特殊部隊によって運び出されました。
 兵士達はパニック状態でした。
 医師はいませんでした。
 人質を搬送する担架も、ガスに対する解毒薬も足りませんでした。
 人質達が何によって苦しんでいるのかを分かる者はいませんでした。
 多くの人が間違った姿勢で搬送され窒息しました。
 人質達は雨の中、何時間も劇場の入り口に放置されました。
 救急車は現場に近づけず、遺体はバスで無秩序に運び出されました。
 パニックは病院にも及びました。
 状況を知らされていなかった医師達は、ガスの成分を知りませんでした。
 どうすれば人質を治療できるのか誰にも分かりませんでした。

 プーチン大統領の演説
「人質解放作戦を決行し、何百人もの命を救いました。不可能なことを
 成功させた我々はロシアを屈服させることはできないのだと証明しました。」

 国から支給された約40万円は埋葬代にしかなりませんでした。

 アンナ・ポリトコフスカヤ女史は、
「チェチェンで暮らす人々は人間らしい生活を奪われています。ノルドオストの
 悲劇の後も苦しみ続ける人達。肉親や親しい人を失った人達。皆チェチェンの
 人と同じ状態にあります。自分達は政府に人間らしく扱われていないと感じて
 いるのです。政府は謝罪し、自分達の過ちを認める代わりに、被害者を見捨て
 たのです。チェチェンでやったのと同じようにね。ロシアの国民は昔から権力
 という名のブーツの底に付いた塵にすぎないのです。」

 「ノルドオストの人質の会」を結成、既に200人以上が参加
 死者一人につき、100万ドルの賠償金を要求
 ロシア政府は訴えを受理していません。
 欧州人権裁判所は四件を受理

 アンナ・ポリトコフスカヤ女史は、
「残念ながらロシアの弁護士達は皆、怖気づいていました。誰も権力に立ち向か
 おうとしないのです。権力者や新しい皇帝と闘わなければならないと分かった
 からです。弁護士達は皆それを恐れたのです。」

 イリーナ・ファジェーエワは15歳の息子を亡くしました。
 死体安置所で見つけた息子の死体には二つの穴が開いていました。傷は隠され
 ていました。おそらくロシア特殊部隊の流れ弾でしょう。しかし公式発表では
 銃弾で亡くなった人質はいないことになっている為、政府は未だ一人息子の
 死因を明らかにしていません。イリーナはアンナ・ポリトコフスカヤと接触し、
 ロシア政府に息子の死の説明を求める記事に材料を提供しました。死亡証明書
 の死因の欄が明らかになるように闘い始めたのです。しかし、記事を発表した
 後、数々の脅迫を受け、秘密情報機関から口を閉ざすよう通告されました。
 姉は毒ガスの後遺症で苦しんでいますが、国は何の援助も与えてくれません。

 事件直後、サナトリウムでの治療を受けるチケットを約束していた厚生委員会
 は、「事件はもう終わった。被害者への援助は取り止めになった。貴方に与え
 る物は何もない。これが国からの援助の実態です。」

 政府側代理人見解「被害者から、無料で入院させてくれなかった。援助して
 貰えなかったと言われたことはありません。私が知る限り、苦情は全くありま
 せん。実際は逆ですよ。病院は援助を申し出ているのに、被害者の方が来ない
 のです。手厚く扱われている筈ですよ。」

「政府は遺族を散々脅した挙句、悲劇の痕跡すら消そうとしています。私達は
 裏切られたばかりでなく、今では押しつぶされ、忘れ去られようとしている
 のです。」 

「スベトラーナは、腕の先を持って引きずられる13歳の娘サーシャの映像を
 見つけました。また、娘がバスの中で折り重なった遺体の下敷きになって
 窒息死したと、後に知りました。三人の男性が重なっていたのです。」
「武装勢力の女性達が何故あんなことをしたのかは理解できます。
 今の私だって、、、何をするか分かりませんから。」



 北オセチアでの強行突入後、プーチンの支持率は80%に跳ね上がる。

「モスクワ劇場占拠事件:立ち上がる遺族たち」:NHK:BS世界のドキュメンタリー