世界フォト・ドキュメンタリー「世界の戦場から」の一冊です。

 この本は、写真集がメインで、文章はサブということが原因なのでしょうか、
私にはその理由は分かりませんが、第二次チェチェン戦争がなぜ始まったのかの
説明は、99年9月のロシアでのアパート連続爆弾テロがあり、これが「反テロ
」の名目でチェチェン攻撃が始められたとの展開になっています。

 つまり、99年8月のチェチェン側が先にロシア連邦ダゲスタン共和国に軍事
侵攻したことについては触れていません。

 林氏の別の著作「チェチェンで何が起こっているのか」では、きちんとこの
チェチェン側からの軍事侵攻に触れているので、何故、このことを本書では触れ
なかったのかが疑問です。

 しかも、99年9月のロシアでのアパート連続爆弾テロ事件がチェチェンの
犯行と証拠もなく断定されたのは、そうですが、
「一連のテロには疑問も多く、ロシア治安当局の自作自演との指摘も絶えない」
という叙述だけで、第二次チェチェン戦争が起きたという説明では極めて不十分
です。

 チェチェン側によるものとの証拠もありませんが、ロシア治安当局によるもの
という証拠もありません。

 99年8月にチェチェン側が先にロシア連邦ダゲスタン共和国に軍事侵攻した
ことについては触れないで、第二次チェチェン戦争を説明するのは、紙面の都合
かもしれませんが、厳密に言うと、歴史の偽造であると私は思います。

「チェチェン 屈せざる人々」
             林克明(岩波書店)1800円+税(2004年4月発行)