「わが朝鮮総連の罪と罰」(韓光熙:文藝春秋1524円)

 著者は朝鮮総連中央の幹部。おそらくナンバー一桁の幹部。
在日二世。東京大空襲時の思い出とかも書いている。
栃木県で育つ。日本の普通高校に通う。高校生の時に、朝鮮同胞との出会いと感動。
そして栃木の朝鮮総連の組織の専従活動家となる。
北朝鮮へと送った帰国者の、在日の家族から、「便りがないが、一体どうなっているのか?」と
問われる。それに何も答えられない自分。それは祖国への初めての疑問だったのだろう。
帰国者が一体祖国でどういう暮らしをしているのか、良い噂は無かった。むしろ悲惨な噂ばかり、、、
自分自身が「地上の楽園」と語って送り出したのに、、、

 総連内の「学習組」(日本での朝鮮労働党組織の名称)の合宿=思想教育の様子も生々しく描いている。
相互の自己批判の毎日。本国でも同様だそうだ。
金日成思想=主体(チュチェ)思想の洗脳の具体的な様子が分かった。

 ・工作船の秘密潜入場所の設営の具体的な様子。
 ・帰国船を通しての本国への送金の様子。
 ・パチンコ店経営による資金作り。
 ・対韓国のスパイ工作のリアルな迫力あるオルグの現実。

 朝鮮総連の内部告発書と言っていいと思う。
非常にリアルな現実が分かる。
しかも総連中央幹部しか知り得ない内容が多く描かれている。
そういう意味で、非常に貴重な資料だと思う。

 著者は、総連こそ正義と信じて疑わなかったのだと思う。
旧日本軍による強制連行。日本での民族差別。
打ち続く韓国での軍事独裁政権。
 総連こそが正義と著者等多くの在日朝鮮人の人達が信じたのも充分な根拠があると思う。
日本の左翼や知識人もまたほぼ同様だったように思う。
私もまたそうだったと思う。
そういう意味で、他ならないこの私自身をも含めて、この冷厳な現実を認めなければならないと思う。

 著者が正義と信じて疑わなかった総連。
しかし、帰国者の問題、帰国者を人質に取り、面会に多額の献金を強制する祖国、、、
著者の胸の内に徐々に祖国への疑問が沸き起こってきたのだと思う。

 ちなみに、個人的に印象に残った、一つのエピソードとして、学習組での思想合宿で、読む本は、
金日成の「パルチザン闘争史」のみであり、それを百回読めと何度も言われていた。
マルクスやレーニンの本は全く読まれていないようだ。
というか、北朝鮮でマルクスやレーニンの本も殆ど売られてもいないようだし、読まれてもいないようだ。