http://blog.so-net.ne.jp/watai/2006-04-27

<一年半ぶりのバグダッドはどうですか>

「想像以上に悪くなっていましたね。
私も一年半ぶりなので、街の様子とか、
最初入る前は非常に緊張したんですけれども、
街の様子そのものは見た目はそんなには変化ないんですよ。
確かに表通りに外出する人は今かなり減っていますんで
商店街とか人の数はかなり減ったような気はしましたが、
相変わらず車の渋滞とかひどかったり、
表向きはそんなに変わりはないんですけれども、
その裏で、中で起きていることというのは、
本当に今イラク人同士の争いでですね、
イラク人がどんどん殺されている情況」

「内戦状態、スンニ派とシーア派の宗派対立という言い方が
この二か月くらいされてきたと思うんですけれど、
内戦というイメージを、私もアフガニスタン、スリランカ、スーダン、ソマリア
色んな所で内戦が起きてきていますけれども、
内戦のイメージというと、政府軍対独立を求めるゲリラとか、
支配地域がいくつかあって、そこをはさんで時々交戦があったり、
時に政府軍がどっかの街を制圧、あるいはゲリラ側が首都を制圧とか、
そういうようなある程度分かり易い図式」

<場所も誰と誰が戦っているか分かり易い>

「支配地域があって、どっちが敵で、どっちが味方か、
住民の側もどっちにつくか、独立派ゲリラを支持したりとか、
そういう図式が通用したと思うんですけれども、
イラクの場合は、政府軍対武装グループが街中で交戦するとか、
戦闘するとかいうケースは実は結構少ないんですよ。
どちらかと言いますと、そういう表での、街中での武器を持った者同士が交戦、
戦闘するのではなくて、むしろ丸腰の市民の人達が、彼はスンニ派だ、
あいつはシーア派だと宗派の違いを理由に闇の中で殺されていくというケース。
今回取材する中で弁護士と話してみましたが、『これは闇の中の内戦なんだ』と
誰が敵で、誰が味方か、自分達イラク人であっても分からないんだと。
誰も今信用できないんだと言っていましたね。
特に彼らが強調するのは、スンニ派とシーア派の対立じゃないんだと、
住民同士が対立しているんじゃないんだと。
これは必ず強調しますね。
今でも住民同士が憎しみ合っている訳じゃないと。
だけれども、宗派の違いでどんどん市民同士が分断されつつある。
ということは話していましたね。
以前は別に誰がスンニ派で、誰がシーア派なんていうのは
分からなかった訳なんですね。彼らも気にもとめなかった。
ところが今、知らない人同士だと、この人はスンニ派だとか、
あそこのエリアはシーア派だとかイラクの人達も気にするようになりましたね」

「学校の中は、スンニ派、シーア派とクラス分けしている訳ではない。
シーア派の子はスンニ派の子と喋りませんとか、学校の中にまで及んでいる」

「余計に危険な要素があちこちに分散してますね。
イラク市民にとっても以前は検問とか分かり易かった。
常駐の検問、米軍の検問、イラク軍の検問と。
ところが今は、民間の警備会社、武装グループ、民兵組織。
一目で分かりづらい。イラク軍、警察だったらまだいいんですが、
警察管轄の治安部隊、民間警備会社、民間警備会社は米英のものが多いが、
実際に現場に配置されているのはイラク人が多い。
つまり警備そのものも非常に入り乱れている。
武装グループだって色んなグループがいますが、
逆の側の、治安を守る側も色んなグループに分かれている」

<それがイラク人同士が殺し合うという構造を加速していることにもなりますか>

「一概には言えないんですが、イラク市民にとっては
危険な要素だけがあちこちに分散しましたね。
どこが管轄しているのか分からない。
ある地区で武器を持った人達が検問している。
だけどこれはイラク軍なのか、警察なのか、それとも民兵組織なのか、
パッと見は分からない。
どこの権限で動いているのか、イラクの市民にとっても非常に見えづらい」

(綿井氏自身も空港からの道路で、
私服のどこの所属か分からない銃を持つ男に検問を受けた。その写真)

「街中で米兵の姿を見かけることは減ったが、空は変わらない」
「朝も昼も夜もヘリが頻繁に低空で飛んでいる」


<政府は無力なんですか>

「今誰もイラクの人達で、もう政府、彼らとしても
希望とかを語るのさえも空しい状態ですね。
もう街中で話を聞いても、選挙もあったし、憲法もできた、
だけれども、何も変わらなかった、むしろ悪くなった。
『フセイン政権の方がましだった』という声が今回かなり増えましたね。
二年位前だと、『それでもフセイン時代には戻りたくない』
『フセイン時代よりはまし』だという人がまだ多かったのですが、
今回さすがに、単に治安情況ばかりでなく、希望さえ語れる状況にない」

「以前だと攻撃対象がある程度限定されていた。
米軍施設、イラク軍、警察関係者、施設とかには近寄らないとか。
この一年位、狙われる場所も無差別化、バスターミナル、モスク、食堂、商店街
米軍に関係があるか、ないかという色分けだけでは済まなくなっている」

<イランの影は>

「SCIRIのバドル軍が警察の治安部隊の中に大量に入っている。
内務省の治安部隊の中に民兵組織が入っている。
この人達はフセイン政権時代はイランに逃れていた。
彼らが職質、摘発、拘束、処刑。
彼らは完全にペルシャ語を喋りますし、
バグダッドの中でもペルシャ語を話す人が増えた」

「武装グループにしてもかなり入り乱れていて、
指揮系統そのものというよりも
色んなグループが今あちこちで自衛を理由に武器を持って
敵とみなす者をどんどん殺している」


「バグダッドの人にとっては、自衛隊は関心の対象外、
バグダッドの人にとっては、自衛隊の存在感は薄い。
その分日本人への敵意、感覚、評判は、思ったよりかは悪化していなかった。
これまで通りフレンドリーな人達の方が多かった」

「バグダッド市内では、アラブ系を除いて外国人の姿は完全に消えている。
(民間警備会社、軍の兵士は除いて)
中で何が起きているのか、全く監視の目が届かない。
バグダッド市内そのものが監獄、収容所のようになっていますから、
殺害事件が起きたって犯人は捕まらない。捜査もされない。
結局自力で身代金を払って解決するしかない。
本当に無法地帯に化している。
三年経って国際社会のイラクへの関心が減っている。報道量も減っている。
今後余計に外からの目が行き届かなくて、中で何が起きているのか分からない
という情況になりますから、何とか武器を持った形以外での国際社会の関与を
どうにかしないことには、このままいくと人が死ぬだけになる。
海外メディアもNGOも今は基本的にイラク人スタッフ」

「一か月に一回くらい食糧配給はあるが、地域によってかなり差がある。
二か月来ていないとか、三か月来ていないとかいう地域もある。
電気は一日の三分の一くればいい方。
自家発電機に頼るしかないが、ガソリンは以前の五倍に値上げ。
ガソリンスタンドは長蛇の列。
電気、水、仕事は改善されることなくずっと続いている。
食糧は周辺諸国から入って来ている。
物流そのものはある。
物価も物によってはかなり上がっている」

<国の核となるべき世俗派の人達が今動けないでいる>



綿井健陽氏のバグダッド報告/
希望描けず、沈む街/イラク人同士の対立に困惑

「バグダッド最新現地報告」:綿井健陽氏(ニュースの深層)2006.4.28