「イラクの女性たち:苦難の数十年」アムネスティ・インターナショナル日本
(ジェンダー情報不定期便「のら」38号)

「アムネスティ日本ジェンダーチームは、イラクの女性たちが過去数十年間に
受けてきた暴力と差別に関する報告書「 Iraq: Decades of suffering:Now
women deserve better.(AI Index:MDE14/001/2005)」の日本語版(46頁)を
発行しました。
この報告書には、フセイン政権時代の抑圧からイラン・イラク戦争、湾岸戦争、
2003年以降の米国主導の占領まで、政府、反政府武装集団、外国軍からイラク
の女性たちに加えられた暴力が記録されています。
このほか女性性器切除、「名誉犯罪」、強制結婚、ドメスティック・バイオレ
ンスなどの伝統的な暴力と、そうした暴力に「寛大な」イラクの国内法にも
焦点を当てています。
報告書「イラクの女性たち - 苦難の数十年」(「のら」38号)の価格は1冊300
円(送料別)です。送付を希望される方は、氏名、送付先、希望部数を明記の上、
次のEメール・アドレスに連絡してください。
gender@amnesty.or.jp
冊子には郵便振替用紙を同封しますので、冊子到着後、郵便局で代金を振り
込んでください。なお、注文から冊子到着までに1〜2週間かかります」



全46ページの小冊子です。

<目次>
1.序
2.蝕むまれた権利と失った自由
 2-1.大規模な人権侵害
 2-2.武力紛争と制裁
3.現在の武力紛争下の暴力
 3-1.無法状態と脅迫
 3-2.武装集団の標的
 3-3.米国主導の部隊による虐待
4.家庭内の暴力
 4-1.「名誉犯罪」
 4-2.女性性器切除
 4-3.夫婦間の暴力
 4-4.強制結婚
5.国内法上の差別
 5-1.身分法
 5-2.夫婦間の暴力に対する寛大な免責
 5-3.「名誉殺人」に対する寛大な態度
 5-4.イラク北部で勝ち取った法改正
6.女性の権利
 6-1.政治的意思決定への参加
 6-2.労働の権利
 6-3.教育を受ける権利
 6-4.健康に生活する権利
7.アムネスティの勧告
 7-1.イラク当局への勧告
 7-2.イラクに派兵している政府への勧告
 7-3.武装集団への勧告



1.序
「社会的、政治的な保守勢力の過激な反動が」
「女性の権利を向上させる上で大きな障害となっている」
「1990年代には妊婦と母親の死亡率が増加し、
五歳未満の子供の死亡率は世界で最悪の地域の一つとなった」
「名誉犯罪は事実上イラクの法律では大目に見られており、裁判所が加害者に
甘い判決を言い渡す余地がある。イラクの法律に見られる性差別は女性に対する
暴力の持続に寄与しているのである」
「2004年6月にバグダッドで開かれた会議には各女性団体から350人の代表が出席
し、武装集団の武装解除に加えて、人権侵害に責任のある米国主導の多国籍軍
関係者が裁判にかけられるように要求」

2.蝕むまれた権利と失った自由
 2-1.大規模な人権侵害
「イラン・イラク戦争;男性の反政府活動家の身内であるという理由で女性は
頻繁に標的にされ、強姦と性的搾取を目的とする人身売買といったジェンダー
特有の人権侵害を受けた」
「80、90年代を通じて、ダアワ党やイラク共産党など、非合法あるいは無許可の
反政府集団に所属する女性活動家と、女性親族は身柄を拘束され、拘禁刑を
言い渡され、拷問され、殺害された」

 2-2.武力紛争と制裁
「2003年3月UNICEFは乳幼児の八人に一人が五歳前に死亡しており、
世界で最悪の高死亡率地域の一つであると評価」
「世代間のギャップを生み出した。母親の世代は高等教育を受けて教養もあり、
自宅外で就職したのに対して、娘の世代は母親と同じレベルの教育を受けられず
、就職せず、社会的には保守的なこと」
「1991年以前には女性は労働人口の23%を占めていた」

3.現在の武力紛争下の暴力
 3-1.無法状態と脅迫
 3-2.武装集団の標的
「イラクでは女性の権利擁護運動をしている女性達は武装集団の構成員に
脅迫され、拉致され、殺害されている」

 3-3.米国主導の部隊による虐待
「米国軍主導部隊が夜間頻繁に行った家屋への奇襲攻撃は多くのイラク人に
とって恐ろしい体験になっている。特に懸念されることは、きちんとした服装を
していない夜間に急襲された時、女性達が男性兵士に肌を露出することだった」

4.家庭内の暴力
 4-1.「名誉犯罪」
 4-2.女性性器切除
 4-3.夫婦間の暴力
「ガザ地区と西岸では2000年のインティファーダ以来、
パレスチナ人女性が被る家庭内暴力のレベルが上昇している」

 4-4.強制結婚
「イラクの身分法の下では、強制結婚は禁止されており、
最高三年の拘禁刑に処せられる(第九条)

5.国内法上の差別
「CPAは2003年から2004年にかけてイラク刑法(1969年法律11号)の修正を行った
米国主導のイラク侵攻後の数か月の間に女性の拉致と強姦が増加したことを
受けて、修正刑法は拉致、強姦、性暴力に対する刑を重くするとともに
加害者が被害を受けた女性と結婚すれば処罰を免除するとした規定を廃止」

 5-1.身分法
「身分法によれば夫も妻も一定の条件の下で家庭裁判所に結婚の終了の審理を
求めることができる(第86-94条)。しかしこの法律は別の離婚申請(タラク)も
認めており、これは男性だけが申請することができる上に、離婚理由は一切
示す必要がない(第34-90条)」

 5-2.夫婦間の暴力に対する寛大な免責
 5-3.「名誉殺人」に対する寛大な態度
「刑法には挑発された場合、あるいは被告人に「名誉を重んじる動機づけ」が
あった場合には「名誉殺人」に対して軽微な刑罰を認める条項がある(第128条)
この数十年間にイラクの裁判所は「名誉殺人」の加害者に対する量刑を判断する
際、情状酌量としてこのような殺人を正当化しようとする企てを可能にする為に
第128条を拠り所にしてきた」
「弁解に応じて個人の刑を免除、あるいは減刑する。弁解が認められるのは、
法律によって指定される事例、その他名誉を重んじる動機で罪を犯した場合、
または被害者による重大で不当な挑発があった場合など酌量の余地がある場合で
ある(第128条)」
「第130条には情状酌量の規定があり、死刑が一年の拘禁刑に、
終身刑が六か月の拘禁刑に減刑される場合がある」

 5-4.イラク北部で勝ち取った法改正
「2000年4月12日スレイマニアのPUKは政令を出した。
『恥を拭うという口実で女性を殺害または虐待することは減刑理由とは
見なされない。裁判所は加害者を減刑する刑法修正案の第130条と第132条を
適用しないだろう』(政令59号)」
「2002年KDPは法律第14号で
『名誉を重んじる動機を口実に女性に対して罪を犯すことは、
刑法第128条、130条、131条を適用する為の法的な情状酌量とは見なされない』

6.女性の権利
「2004年8月、Women for Womenが実施した女性への意識調査
バグダッド、バスラ、モスルで
・93.7%が法律上の女性の権利を確保して欲しいと思っている
・83.6%が憲法採択の為の国民投票で投票する権利が欲しいと思っている
・95.1%が教育の制限があってはならないと思っている
・57.1%が家族が十分に医療を受けられない
・84%が公式・非公式の仕事からの収入がない」

 6-1.政治的意思決定への参加
 6-2.労働の権利
「2004年初めに発表された政府の数字によれば、内務省を除くイラクの官公庁に
勤める90万9344人の公務員の内、42万3801人(約46%)が女性だった」

 6-3.教育を受ける権利
「UNESCO:2003年イラクの識字率は中東地域で最低水準
2000年:6歳から11歳の子供の内、小学校に通っていたのは76.3%、
通っていない男子は全体の17.5%、女子は32.2%
地方農村地域では49%の女子しか通学していない」
「2004年10月までにバグダッドでは約三千人の女子学生が
治安上の理由で学業の延期を申し出た」

 6-4.健康に生活する権利
「医療へのアクセス制限;
82%の女性が夫か男性親族の許可を得なければならない」

7.アムネスティの勧告
 7-1.イラク当局への勧告
 7-2.イラクに派兵している政府への勧告
「(a)全ての軍事作戦では、国際人道法上の規定を完全に尊重し履行すること
(b)国際人権法や国際人道法に違反したとする全ての申し立てを調査すること」

 7-3.武装集団への勧告
「(a)人質奪取、拷問、虐待を直ちにやめるとともに、
人質を含めた民間人を標的にしたり、殺害したりするのをやめること
(b)全ての無差別攻撃を直ちにやめること
(c)女性に対する嫌がらせ、殺害の脅し、暴行を直ちにやめること」





「イラクの娼婦 路上に暮らすナジャート」
ステファニー・クイケンダル
Exile in Baghdad:Stephanie KUYKENDAL
(DAYS JAPAN 5月号)

「イラクの女性たち:苦難の数十年」:アムネスティ・インターナショナル日本