香港 PHOENIX の時事弁論会

(劉寧榮:生涯教育センター)
「私はイラク情勢が良い方向に向かっているとは思っていません。
かといって内戦が起こるまで事態は悪化した訳でもありません。
米軍がイラクを離れない限り内戦が起こる可能性は極めて小さいと思います」

「撤退したらどうなるのですか」

(劉寧榮:生涯教育センター)
「三年以内にイラクから撤退することはないでしょう。
イラク戦争の大義名分とされている民主主義政府の確立という目的が
達成しないと、米軍はイラクから引き揚げないと思います。
アメリカの国益から考えても内戦が起こることは決して望ましくないのです。
シーア派がイラクの大半を占領し、イランとの同盟関係を固めるような
事態になるとアメリカにとっても収拾がつかなくなります。
クルドが独立するようなことになると、トルコ内のクルド人と連携を強め、
トルコの安定が脅かされます。
アメリカは各勢力間の均衡を保つ為にスンニ派の大使を派遣しています」

(何舟:香港城市大学教授)
「劉さんは、内戦という定義を国内における大規模な武力衝突を前提に話して
いるんだと思いますが、近代における内戦の定義は大きく変わっています。
1945年以降、内戦の特徴は主としてゲリラ戦や誘拐、暗殺、民族の粛清という
形に変化してきており、イラク情勢はこうした様相を呈してきたと言っていい
でしょう。米メディアも内戦は既に地滑り的に始まっていると報じていますし、
一般市民や武装組織の死者は月に千人を超えています。
この千人の死者は米軍に殺されたのではなく、イラク人同士によって
殺されているんです。ですから内戦は既に始まっているんです。
大規模な形での国内戦争が内戦だとする考え方は
米政府が一方的に主張しているだけのことです。
ブッシュ政権の政策は米国民のコンセンサスを得ている部分もあるでしょう。
テロとの戦いとか。しかしイラクを攻撃したことが、
テロの撲滅、あるいはテロを減らしたことになるんでしょうか。
更に言えば、石油供給の問題にしても、原油価格は上昇するばかりで、
世界の石油市場に何ら影響を与えていません」

(劉寧榮:生涯教育センター)
「石油価格の高騰は各利益集団の操作の結果です」

(何舟:香港城市大学教授)
「いや、ブッシュ大統領がイラク攻撃に踏み切った前提はことごとく崩れており
米軍のイラク駐留という大義も失われたということです」

(劉寧榮:生涯教育センター)
「米国防長官は今撤退するとこれまでの努力は全て水の泡になると話しました。
撤退は絶対にあり得ません」

(譚志強:香港珠海書院教授)
「イラクの内戦は既に始まっているのです。
イラクの情勢は昔のベトナムに似てきました。
ゲリラ的な銃撃や不意打ちなどは日常的に多発しています。
ですから米軍が正式に撤退したら内戦は勃発するだろうとみています。
次期大統領選に共和党は勝ったとしても
ブッシュ大統領のオモリを背負っていきたい人は誰もいない筈です」

(劉寧榮:生涯教育センター)
「確かに米国内ではブッシュ大統領を批判する声が高まっていますが、
イラクへの派兵を丸ごと否定してしまうことは絶対にないと思います。
お二人はこの点を見過ごしています。
国内の各勢力とも強い軍事力を持つと内戦が起こりやすいのです。
イラクでは情況が違います。
クルド、スンニ、シーアはいずれもしっかりと武装されていた訳ではありません
お互いの間で武力衝突が起こることは考え難いです。
イラクで起こった武力衝突は全て米軍をイラクから追い出す為のものであり、
内戦ではありません」

(何舟:香港城市大学教授)
「それは違います。今イラクの軍部はシーア派が握っています。
軍部が任務を遂行する際、標的にされるのはスンニ派の人々です。
イラクに散在する多くの武器や兵器が民間の手に渡っていることです。
イラクには元々民兵がたくさんいました。
スンニ派にもかなりの武器が行き渡っている訳で、
彼らは正規軍ではないとしても、ゲリラ的な武装闘争は展開可能です」

(譚志強:香港珠海書院教授)
「米軍撤退以降は、イランはシーア派を、サウジはスンニ派を支持し、
外国勢力は更に国内に入り込む筈です」

(劉寧榮:生涯教育センター)
「米軍も大きな過ちを犯したと認めています。
スンニ派民兵の武装を解くまで手が回らなかったのです。
ペンタゴンはこの過ちに気付いたので、
イラクに駐留している間に何とか解決を試みるでしょう。
内戦を引き起こす火種と成り得る問題を放っておいたまま、
イラクを後にすることは絶対にないと思います」



<視聴者のメール>

「イラクの行方に関して三つのシナリオがある。
一.アメリカの後ろ盾を得た政権は地盤を固め、アメリカ式の民主政治を広める
ニ.宗派間の対立が深刻化し、国が分裂する
三.フセインのような独裁者が再び出現する」

「大騒ぎすることはない。内戦は絶対にあり得ない。
どの宗派も人を束ねる求心力がないし武器を購入できる程の財力もないからだ」

(from 浙江舟山)
「アメリカが足跡を残した所では、必ず内戦が起こる。
米軍が撤退したら、各宗派は勢力図を塗り替えようと戦争を起こす筈だ」

(from 浙江杭州)
「もう既に内戦状態だ」



(劉寧榮:生涯教育センター)
「最近米CBSは多くの米在住のイラク人をインタビューしました。
米軍は撤退すると内戦はすぐに起こるだろうというお二人の意見とは違って、
彼らは米軍が早急に引き揚げて治安維持の権利をイラク政府軍に移してくれれば
緊迫した情勢はかえって早く収まるのではないかと思っているようです」

(何舟:香港城市大学教授)
「それは一方的な願望でしかありませんよ」

(譚志強:香港珠海書院教授)
「外国に住んでいるから、そういうことを言えるのですよ」

(何舟:香港城市大学教授)
「米政府のイラク政策もある意味アメリカの一方的な願望でしかないと思います
アメリカが尻尾を巻いて撤退する例は枚挙に遑がありません。
確かにアメリカはアメリカの価値観でイラクに民主主義を樹立したいんでしょう
アメリカは日々数十億ドルをイラクにつぎ込み、米兵が毎日死んでいるんです。
こんな状態を続けられますか」

(劉寧榮:生涯教育センター)
「現在のイラクでは、アメリカが中東各国の力の均衡を守るという考えで、
イラクの統一を望むのであれば、その目的が必ず実現できると思います」

(何舟:香港城市大学教授)
「アメリカの外交政策は多くの場合、短期的な国益で動いています。
長期的な政策を堅持するといったケースはむしろ稀です」



<視聴者のメール>

「イラクの国民も政府も民主主義を経験したことがない。
現状をコントロールする運営能力が低く、
国益ではなく、権力闘争に走ってしまった。
ますます泥沼状態に陥る筈だ」

「フセインはイラクを一つにまとめ上げた。
アメリカ頼りの政権は長続きはしない筈だ」

「米軍が撤退したら、小競り合いは戦乱にエスカレートするに違いない」

「米式の民主政治は通用しない。イラク国民は苦難のどん底にいる」



(何舟:香港城市大学教授)
「ベトナム戦争はある意味イデオロギーの衝突でした。
イデオロギーの衝突は、相対的に言えば解決しやすい問題とも言えます。
イラク問題の根源は三つあると思います。
一.宗教対立
ニ.民族対立
三.経済、石油」

(劉寧榮:生涯教育センター)
「現在のイラクでは本当の意味で権力を握っている人は
スンニ派である米大使なのです。
これについてシーア派は当然快く思っていません。
米の意中のシーア派の人は失脚しました。
私は内戦が起こる可能性はないと思っています。
どうしても解決できない場合、ユーゴスラヴィアのように
それぞれ独立するような事態に発展する可能性も全くない訳ではありません。
ただし独立しても、それぞれの国で自らの国益を確保できるという
アメリカの確信はその前提だと思います。
それぞれ独立することはあっても内戦は起こりません。
どの勢力も内戦を引き起こせるような軍事力を持っていないのです。
イラクはアメリカの国益に深く関わっている為、
安易に撤退することはできません。
どうしても収拾がつかない事態まで発展してしまうと、
アメリカはそれぞれの独立を促すことに乗り出すでしょう」

(何舟:香港城市大学教授)
「今問題にしているのは、お互いの問題解決が議会などでの話し合いではなく、
白昼での暗殺やゲリラ、誘拐、こういった手段で行われているということです」

(劉寧榮:生涯教育センター)
「しかしゲリラや暗殺の主な対象は米軍であることを忘れないで欲しいです」

(譚志強:香港珠海書院教授)
「既に三万人余りのイラク市民が死んでいますよ」

(劉寧榮:生涯教育センター)
「主な対象は相手勢力ではありません」

(譚志強:香港珠海書院教授)
「市民の死者数は米軍よりはるかに上回っています」

(何舟:香港城市大学教授)
「いいですか、一月に千人以上のイラク人が死んでいるんですよ。
そして問題は更に深刻化しているんです」



<視聴者のメール>

(from 浙江省)
「劉さんの意見に反対だ」

(from 広東省)
「米軍が撤退すれば、いずれは統合の道に向かう筈だ」



(劉寧榮:生涯教育センター)
「イラクでは波風を立てようとするビンラディンの勢力は存在していません」

(何舟:香港城市大学教授)
「周辺諸国のイラクに対する関与の度合い。
クルド人自体が大民族で、イラク北東部から旧ソ連諸国、
更にトルコやシリアに至るまで幅広い範囲に点在しており、
外国の勢力が関与し易い情況にあることを忘れてはいけません。
それに加えて、シーア派とスンニ派の争いは、
イランやサウジといった国を巻き込む可能性もある訳です。
このような情況の中で、アメリカは問題を処理してから撤退すると考えるのは、
余りにも一方的過ぎると思いますよ」

(劉寧榮:生涯教育センター)
「いや、一方的な思いではありません。
まずクルド人はアメリカのおかげで今の地位を手に入れたので、
アメリカの言うことを聞かざるを得ないのです。
シーア派については、イランと手を組むとの懸念があって、
アメリカはその勢力の拡張が好ましいと思っていません。
そういうことで、各勢力間の均衡を守る為に
アメリカはスンニ派をバックアップしようとしています。
アメリカはイラク情勢を誰よりも鋭く認識しているのです」

(何舟:香港城市大学教授)
「はっきり認識していることと、処理できるかは別問題です」

「イラク内戦の可能性は」:香港PHX