<第一章:移民二世ザック「自分探しの旅」>
9.11の20人目のテロリスト・ザックことザカリア・ムサウィ
モロッコからの移民の母親は離婚後、白人街に一戸建ての家を建てた。
「だったうちの子供が下町で変な連中と付き合って感化されたら
大変じゃないですか」
「一般的に仏のアラブ系移民一世は仏社会に懸命に溶け込もうとする」
「移民一世は仏人以上に仏的になる」
「ザックは典型的なアラブ移民二世としての道を歩む。
親と同様に仏社会に溶け込もうと試みたにも関わらず拒否された結果、
仏人以外に自らのアイデンティティを求めようとした」
・白人女性との恋と失恋
・アイデンティティ・クライシス
・自分探しの旅へロンドンへ
・イスラム過激派の拠点ロンドンの三人の指導者
 ・アブ・ハムザ
 ・オマル・バクリ
 ・アブ・カタダ
「過激なイスラム主義を唱える指導者は少なくないが、その多くは口先だけ」
「彼らは『聖戦』を叫ぶことでメディアに登場し、
それによって本やビデオを売ろうとする商売人だ」

「アラブ系は就職や進学で差別を受ける。
 『僕は仏人なのか、アラブ人なのか』と自問するようになる。
そこに『あなたのアイデンティティはイスラムにあるのですよ』とささやく
原理主義の勧誘が来ると、自己を再発見した気分になり、
過激な思想に近づいていく」

「教師や周囲の生徒の間で民族宗教的差別が根強い結果、学校はアラブ系の
生徒にとって、社会に参加する方法を学ぶ場としてよりも、自分がいかに
社会から疎外されているかを身にしみて知らされる場として機能する。
社会規範を学びたくても学べないアラブ系の若者に唯一その方法を示してくれる
存在となっているのがイスラム教だ。彼らにとって家庭や学校が教えてくれ
なかった社会の決まり、他者との付き合い方、人生の考え方を指導してくれる
指針として魅力的に映る」

「過激派はアラブ・イスラム社会の奥底から生まれてくるのではなく、
実はアラブ社会と西洋社会との接点で誕生するのではないだろうか。
イスラムを知らないことが、逆に過激派への道に踏み込む
きっかけとなるのではないか」


 <第二章:スラムの勝ち組>
カサブランカのテロ事件で自爆した十人余りの内少なくとも六人は
スラム街の出身者で、隣近所の幼馴染同士だった。
・スラム街の勝ち組
・大学にも進学
「スラム出身の若者は特別なコネでもない限り、
 たとえ大学を卒業しても将来への希望など持てなかった」
・テロリストまでの五段階:モハメド・ダリフ(大学教授)
1.テロを計画する人物が若者を勧誘
2.組織の重要性を強調し、服従するよう叩き込む
3.死の重要性を吹き込む
4.自分達の組織以外の人への憎悪を植え付ける
5.「組織以外の人は殺していい」との論理に導く
「彼らがテロを起こした決定的な理由は貧困ではなく、
自己の内面に起きた変化だ」(ダリフ教授)
モロッコでは『ソフトな独裁』が行われてきた。
「独裁政治の下で情報から遠ざけられていた。
外の世界で何が起きているのか知ることは難しかった。
グローバル化の波からこの国も無縁ではいられなかった。
ネットと衛星放送の普及が状況を変えた。
『その結果、若者達は夢を見るようになった』
・下町の優等生:モハメド・ハタ
・傷ついた「アラブのお坊ちゃん」

「自爆テロリストで、大学者や知識人といった指導者層に属する人はいない。
逆に、百姓や労働者といった貧しい階層に属する人もいない。
共通しているのは、そこそこの教育を受けたものの、その後社会で進むべき道を
見失った人々だ。彼らは個人的な失敗を暴力であがなおうとしている」


 <第三章:モスクの外、刑務所の中>
・転落した優等生
対テロ戦争の名の下に犠牲になったムスリムの映像を見せて、そのショックから
居ても立ってもいられなくなった状態で「殉教者のリストに加えて下さい」と
語ってしまう。
「言質を取られる。一旦断言したことには本人自身が縛られる。
カルト組織で利用されるこのマインドコントロールの手法を
アルカイダが使っていることが、証言からうかがえる」
・モスク内には問題なし
・鍵はモスクの外にある
「西欧諸国でモスクを訪れると、入り口で様々な勧誘や募金に出会う。
それは、パレスチナ難民支援の呼びかけであったり、
メッカまでの格安パック旅行の案内だったりする。
彼らは門の外で待ち受け、出入りする人々に遠慮気味に声をかける」
・過激派に利用される組織
「タブリーグを『過激派への入り口を若者に提供している組織』と位置づける」
『タブリーグが過激派にうまく利用され、温床となっている』
「タブリーグが直接過激派と関係を持っている訳ではない。
ただ、タブリーグで修行している若者の中には、その平和主義や非政治性に
満足がいかなくなって、更に過激な考え方を追い求めようとする傾向がある。
彼らはタブリーグを一種のステップとして、次の段階に旅立っていく」

「改宗者の相当部分が元々のイスラム教徒よりも厳格で原理主義的になりがち」


 <第四章:テロリストの妻たち>
アフガニスタン現地でアラブ人にあてがわれた最高級の住宅街での生活は
快適だったという。
「皆生活は裕福そうだった。外国人ばかりの学校に子供を通わせた。
地元のアフガン人と接することはほとんどなかった。
むしろ見下す態度を取っていた。
『私達アラブ人には野蛮なタリバンを教育し、
真のイスラムを伝える使命がありました』

「カルト集団の内部では、教祖の周囲に集まる幹部らが競い合う結果、
暴走して犯罪行為に至るケースが少なくない。
企業内と同様、企画を立案して手柄をたて、出世を目指す人物が必ずいる」


 <第五章:哀しき改宗者>
 <第六章:乗っ取られた村>
「平時なら単なるカルト集団として相手にされないグループの言動に、
内戦時ならばこそ人々の支持が集まる
ボスニア現地のムスリムはスーフィズムが主流だった。
海外からのムジャヒディンとは部隊内での対立が激化する。
その為、義勇兵だけの部隊を分離・設立する。
95年のデイトン合意は義勇兵にとっては裏切りと映った。
義勇兵の功績を讃えることと引き換えに、穏便に部隊を解散させた。
義勇兵はチェチェンやアフガン、あるいは故郷へと旅立った。
ボスニアのある村が義勇兵と家族百人に乗っ取られた。
外部から手出しができない解放区となった。
2000年、国連主導による難民帰還の過程で、その村の義勇兵の多くは去った。
「過激派の矛先がサウジ政権に向かわないよう、原理主義組織を支援する
姿勢を見せることで、彼らを満足させ、その結果、過激思想を蔓延させる
温床をつくっている」
「ボスニアの田舎に行くと、内戦で村全体が廃墟のようになりながら、
モスクだけ立派に復興されている所が少なくない」
「サウジにより再建・新築されたモスクは150。
ワッハーブ派の広める拠点となっている」
ボスニア内戦中は数百のイスラム系NGOが活動していた。
「この種のNGOの活動として近年目立っているのは、戦争で夫を失って困窮して
いる女性に財政援助することだ。ただ支援には罠が仕掛けられている。援助を
受ける女性に対して、『ベールをかぶれ』『戒律に従え』と紀律を押し付ける」


 <第七章:劣等感がテロリストをつくる>
「パレスチナ紛争やアフガニスタン紛争は、それがテロリストを生んだ
というより、むしろテロを実行するうえの口実に使われている」
「若者の不安定な精神状態こそがテロリストを生み出す基盤なのではないか」
「アルカイダのテロリスト達も私達の想像もつかない人物であって、
想像できない発想で、想像できないことをしでかすと考えがちである。
そうではない。彼らは想像の範囲内の人物なのである。
似たような集団は私達の周囲にいくらでも存在する。
カルト集団はその典型だ。
それらに共通する要素をアルカイダも多分に持ち合わせているといっていい。
若者特有の劣等感や不安定な精神、上昇志向などにつけ込み、勧誘を繰り返し、
マインドコントロールを施す」

「9・11テロをイスラム教と結びつけるのは、オウム真理教が起こした
地下鉄サリン事件を『仏教徒のテロ』と呼ぶことと同じほど
ばかげているのではないでしょうか。
自爆テロの実行犯とイスラム教との間には実は何の関係もないかもしれません」
「テロリストらは自らに支持を集める道具としてイスラム教を使っているのです
彼らにとって教義の内容などはどうでもいい」

『テロ行為の理解のために』
・分離の哲学:キーワードは「私達と彼ら」:内部と外部にニ分割、差異を強調
・純粋の哲学:全てを「純粋なもの」と「不純なもの」にニ分割
・延命の哲学:「私達」でない者はみんな「敵」とみなされる
「拠点は次第に訓練キャンプの様相を強めていく。
もはや宗教施設ではなく、軍事訓練上の砦となる。
組織本来の目的であった宗教は既に、どうでもよくなっている」
「内部抗争が激しくなると」「外部に敵を設定する」
「理想化された組織に加わっていることは、
一種の選民意識としてメンバーに染みついてくる」
・実態は「チンケな若者の集合体」
「アルカイダは、ぐれた若者の根性を鍛え直す機関に似ている」
「アルカイダは最新鋭の情報技術と交通手段を駆使する21世紀の組織」

「ブッシュ政権の基本的な過ちは、テロに対して戦争で応じようとしたこと」
「テロは何よりもまず、犯罪である」
「大衆とテロ組織を区別し、大衆の支持を得ながら
テロ組織を干上がらせることにまず取り組むべき」

「アルカイダを含めたイスラム過激派は、決して将来性がある組織ではない。
将来に対して神頼みばかりで何ら具体的なビジョンと道筋を示さず、
単に現状への不満を吸収しているに過ぎないから」

「自爆テロリストの正体」:国末憲人(新潮新書)