ムジャヒディンからテロリストに変貌する断絶と飛躍

 アフガニスタンでソ連軍と闘ったムジャヒディン達は、
その後更に、チェチェン、ボスニア、コソボ等の紛争地へも戦いにでかける。
そこには、ムスリムを侵略し、抑圧する異教徒と戦うという大義があった。

従って、彼らが、無差別テロを行うテロリストへと変貌するには、
一人一人の内面でその断絶を埋める精神的飛躍が必要だ。

しかし、クルアーンには、決して記載されていないことを
つまり、女性、子供、老人等々の非戦闘員をもターゲットにするということを
更には、同じイスラム教徒でも、腐敗している者は殺してもよいということを
自分自身が行うことを、どのように内面的に自己正当化しているのであろうか。

ある者は、クトゥブのような過激思想への共鳴だろうし、
ある者は、親族等を非道に虐殺・虐待されたことへの復讐だろうし、
ある者は、貧困から、経済的理由でリクルートされることもあるだろう。
また、それらの要因が複合していることもあるのだろう。

 クトゥブの主張
「イスラム世界における政府の権威主義的で、抑圧的な性格を考えれば、
 内部から漸進的に改革するというのは無駄な努力」
「中庸の道はありえない。ジハードを拒むムスリムは神の敵であり、
 殺害されなければならない」
 クトゥブの言う通り、イスラム世界はほとんどが独裁政権だ。
情勢認識が誤っているとは言えない。
しかし、そういう認識に基づく後半の方針は無茶苦茶だ。
独裁政権に反対する方法は他にもあるだろうし、闘争方針・闘争形態自体が
間違っている。

 そういう非合理な方針を自ら担うには、相当深い非合理で非道な経験を経た
者しか担い得ないのではないか。
言わば、そういう<魂の転回>を経ることなしには不可能ではないか。


そういう<精神的な面>だけでなく、
<制度的な面>や<現代メディアの進歩という面>もあるだろう。

 例えば、パキスタンでは、いくつもの過激派組織が非合法化された。
しかしその指導者は逮捕されず、活動家も恩赦によって釈放されている。
ムシャラフ大統領は、軍事政権の維持の為、世俗的な反政府勢力を抑圧する為、
イスラム政党と妥協し、支持を取り付けるかわりに、黙認するという関係
にある。軍部はカシミール問題もあり、相互依存関係にすらある。
神学校マドラサの教育内容にも干渉できない。


ハマスやヒズボラは、米国から「テロリスト」と規定されているが、
最近では、選挙で躍進しており、それに伴ってテロ行為も減っていくと思う。
タリバンの穏健派も武装解除に応じ、選挙にも参加する方向に向かっている。
チェチェンの武装勢力の中のワッハーブ派ではない部分は、武装解除に応じ、
政府軍部隊に入り、ワッハーブ派と戦っている者も多い。
イラクのスンニ派地元武装勢力も、米軍との停戦を呼びかけている。
これらはイスラム超過激派ではないが、過激派ではある諸組織の動向は、
政権の側の統治形態や方針にも左右されるとは思う。


ヨルダンのムスリム同胞団は、国会に17議席を持ち、穏健なムスリム同胞団が
過激主義への「安全弁」になってきたという面もある。


メディアという面では、アルジャジーラなどの衛星放送、ネットでの動画配信、
DVD等での映像の配布等々。

アフガニスタンでの戦闘に参加した第一世代から、
第二世代の台頭という新たな問題も生起している。

国連は、米国とは違った「テロとの戦い」方の方針を示している。
アナン事務総長の報告書 in larger freedom では、
安全保障、人道・人権、開発という諸問題を密接に有機的に連関して包括的に
論じている。
「安全保障なくして開発もない」「人権保障なくして安全保障もない」ことが
強調されている。

無差別テロは、絶対に否定しなければならない。
しかし、「対テロ戦争」の名の下で、一般市民にも多くの犠牲を出せば出すほど
テロリストへのシンパシーや、更にはテロリスト予備軍を創出してしまっている。
この悪循環を断たねばならない。


「イスラムの誤った解釈に基づく思想は、イスラム本来の教えを通じて
改めさせるしかない」とイエメン政府は、過激派との対話委員会を創出し、
拘束されている過激派のメンバーのもとを訪れ、対話を通じて過激な思想を
改めさせる取り組みを行っている。
「私達若者はイスラムの問題は全てアメリカのせいだと思っていました。
 ビンラディンこそがイスラム戦士のシンボルだと思っていたのです。
 かつては武器をとって異教徒と戦うことばかり考えていました。
 私達の意見を受け入れない者はみな敵だと考えていたのです」
「イスラム教に関する知識の不足や誤解から彼らはテロに走るのです。
 コーランには異教徒と仲良くしなさいという記述が124か所もあります。
 戦って良いのは攻撃を受けて自衛する場合だけです。
 私は質問も答えも全て目の前でコーランを指し示して行うので
 彼らも納得してくれるのです」
 対話委員会のマニュアル
対話を行う上での注意事項
過激派がテロに関わる思想を話した時には、その内容がコーランの
どの部分に基づいているのかを、その都度問い質しながら話を進めなさい。

こういうソフトな方法も全体の中での一つの有効な方法だと思う。

「イスラム超過激派」宮田律(講談社)