2005.7.9(土)放映

 バース党内部で、民主化を巡り、改革派と守旧派が対立。

スーク(市場)は賑わっている
ウマイヤドモスクは現存するモスクの中で世界最古
第四の聖地として世界中から巡礼者が訪れる
中国をモデルにした市場経済の導入を進めている
欧米スタイルの店も次々にオープン
インターネット・カフェは若者に人気

憲法「バース党は国家と社会を指導する」:一党独裁体制
野党の活動は認められていません

2000年7月アサド大統領就任:国民投票で97%の信任
・言論統制を徐々に緩和
・衛星放送を解禁
・インターネット解禁

・シリア国営テレビにも改革
 政治討論番組:放送部長マジド・ハリーメ氏
 バース党大会前
「討論の広場」反体制派作家ミシェル・キロ氏出演
「私の目から見てもバース党員は優遇されすぎています。
 差別ととられても仕方がありません」(政権支持派)
「集会は禁じられています。意見もまともに発表できない。禁止だらけです。
 どうやって市民が政治に参加できるっていうんですか」(キロ氏)
「新しい政党法を作って複数政党制を導入すれば、
 国の政策について活発な議論ができるようになるはずです」(政権支持派)
「もしバース党がこれまでの路線を変えることができないのであれば、
 シリアは今の停滞した状態から抜け出せないと思います」(政権支持派)
「バース党に何を期待しろと言うんですか。国営テレビの最新世論調査では、
 バース党大会に期待するものは何もないという答えが一番多かったんです。
 国民は諦めムードです。改革なんて掛け声だけです。期待を持てなんて
 無理な話です」(一般市民)
「シリアにとって今最も大事なのは自由です。国民に自由がなければ、
 国はいずれ崩壊してしまうでしょう。誰もが政治に参加することができ、
 自由に意見を発表できる権利を認めるんです。それができないのならば、
 いくら改革、改革と言っても何の説得力もありません」(キロ氏)


 キロ氏も参加する市民団体フリヤート:合法的団体を目指して政府に活動申請
「シリアは重大な危機にあります。この国を厳しい未来から救う為には、今こそ
真剣な行動が必要なんだということを考えなくてはならないのです」(キロ氏)


 シリア国民の多くは民主化が順調に進んでいるとは考えていません。
しかし、圧力を掛け続けるアメリカにも強い反感を抱いています。

 ダマスカスの国立劇場での風刺劇が市民の人気を集めていました。
「アフワン アメリカ」:ごめんよ、アメリカ
舞台はダマスカス。米女性が、日頃から生活の不満を漏らしている男に、
一緒にアメリカに行くことを提案します。
「この国にいても良いことがある? 勉強したくてもできない。仕事もない。
 治安機関に国民は監視されている」
「アメリカには自由がある。人権が守られている。繁栄の国よ」
しかし、どうしても割り切ることができない男はジレンマに悩みます。
「誰がパレスチナ人を殺している?」「アメリカ」
「誰がイラク人を殺している?」「アメリカ」
「どんな状況になろうとアメリカと手をつなぐのは不可能だ」
悩んだ末に男は結論を出します。
「すまないが私達の尊厳は地球よりも重い。
 私達はアメリカの言う通りにはならない」
(会場は拍手喝采)

 シリアに民主化が必要だと認めつつも、自分達の手で成し遂げるというのが
劇のメッセージです。

 会場の市民達は、
「押し付けの民主化はいやよ」
「アラブの誇りを台無しにしてまで民主化をしたくはありません」

・米の圧力
・反体制派の要求
・根強い反米感情
 バース党はそれを、どう調整しながら改革を進めていくべきなのか

 アサド大統領が党大会前に、100万人のバース党員に宛てた質問状
「世界が大きく変化している中、党の思想、組織、行動を新しくする必要がある」
「シリア国民にとって民主主義とはどのようなものなのだろうか」

 バース党若手党員の改革派アイマン・アブドゥルヌール氏(40歳)
一刻も早く改革を進めなければ党の存続が危ぶまれると考えています。
二年前からインターネットを通じて、民主化に向けた改革の必要性を訴え
続けています。
抜本的な改革を拒む党内の守旧派に対して挑んでいます。
「党大会で複数政党制について、実際に決まるのは理念だけのことだ。
 それでは意味がない」
「そもそも党大会に参加する党員のほとんどが70歳以上だ。
 改革なんかできる筈がない」
 守旧派からの反論
「今流行の民主主義に影響され、党の精神を壊そうとしている」
党内の守旧派は今の時代を読み誤っている。
「バース党は国際的変化に対応する為に、イデオロギーを近代化させ、
 今の時代に適応しなければならないのです。
 そうしなければ、バース党の存続は難しいでしょう」
父イブラヒム氏75歳、バース党発足時からのメンバーです。
急激な改革には反対です。
アラブ民族の統一というバース党結党以来の理念を守り通すことが
何よりも大切だと信じています。
「いいか、アイマン、バース党の理念を捨てて、急激な変化を起こしたり、
 資本主義になったりしたら、ソ連と同じように崩壊の道を辿ってしまうのか、
 アメリカの圧力に屈してはならんのだよ」
「違いますよ、お父さん。アメリカの言いなりになるのは私も反対です。
 ただ、今政治改革をしなければ、バース党は内部から崩壊してしまうと
 言ってるんです。そうなれば他の政党に支配されることになるんですよ。
 どうするんですか。だから、バース党を強化して維持、発展させなけらば
 ならないんです」
 議論は最後まで平行線を辿りました。
「バース党が大切に守ってきたイデオロギーは素晴らしいものです。
 アラブ民族の統一です。これは全てのアラブ諸国が求め続けてきた夢であり、
 悲願なのです。改革は速すぎてはいけません。社会の状況に見合った形で
 進まなければならないのです」
「私はバース党をなくそうなんて言っている訳じゃないんです。
 アメリカからの圧力に対処できるように、バース党は急いで準備しなければ
 ならないと言ってるんです」


民主主義のための討論の場「アタシ会議」15の政治団体が参加
(アサド政権が唯一黙認してきた政治フォーラム)
二週間後、運営メンバー9人が治安機関に拘束。
それへの抗議デモ。
シリアでは抗議デモ自体ほとんど行われたことがありません。
情報機関員は、デモは制止せず、発言を細かくメモを取っていました。

 国営テレビの政治討論番組は放映されませんでした。

 バース党大会
民主化に向けた改革を示さなければ、国内外の批判をかわすことはできない。
しかし、体制の維持は何よりも重要である。
アサド政権のジレンマが浮き彫りになりました。



<私の感想>
バース党政権成立当時は、それなりに大衆の支持があったのだろう。
しかし、現在その支持率は高いとは思えない。
これが本質的矛盾だろう。
矛盾の本質的解決ではないが、現実的解決の一つとして、
複数政党制の導入があるだろう。
しかし、あくまでも、バース党一党独裁体制維持という
限定の範囲内でのことにすぎない。

 アサド大統領が、戒厳令廃止を宣言と伝えられ、
その後、実際には行われていない。
そういう生じた現象を通して、バース党内部での路線対立を
推測することはできる。

「上からの民主化」「下からの民主化」
その2モメントがある。
つまり、力関係。
今の所、下からの力は大きくはないようだ。
これまで歴史的に抑え続けられてきたということだろう。
そういう意味では、バース党は、一党独裁をこれまでは、
『上手く』維持してこれたと言えるとは思う。
しかし、今後も、一党独裁を維持することは不可能だろうし、
無理やり一党独裁を続ければ、「革命」状況が来るだろう。
複数政党制の導入が必要だろう。
しかし、ソ連圏の崩壊過程を、どう教訓化するか?
民主化、複数政党制の導入がソ連圏崩壊を招いたと教訓化するのかどうか。

 アメリカからの「外圧」は、現状ではまだ効果はないようだが、
最近の「民主主義革命の輸出」のやり方を実践するだろう。
しかし、シリアでは、「内からの」圧力、つまり、シリア国内の
反体制派への支援は、そう簡単ではないかもしれない。
シリアの反体制派自体に根強い反米感情がある。

「シリア民主化≠ヨの攻防」:NHKBS