<第一節>「名目的」権力装置の多元化

 表向きの三権分立の法治国家としての体裁は「名目的」権力装置にすぎず、
「真」の暴力装置たる、戒厳令下のムハーバラートと軍

・戒厳令下:1963年以来戒厳令下
 集会、結社、移動の自由などの制限
 ムハーバラート(情報機関、秘密警察、武装治安部隊)による
 検閲、尋問、拘束、逮捕、軍事裁判
 
・翼賛的な政治同盟「進歩国民戦線」:「多元主義」を体現する存在
 1972年結成
 傘下政党
 ・バアス党
 ・統一社会主義者党
 ・アラブ社会主義者運動
 ・アラブ社会主義連合党
 ・統一社会民主主義党
 ・シリア共産党
  等々

・憲法(1973年):「バアス党は社会と国家を指導する党」規定
 バアス党は、人民議会の過半数の議席と主要閣僚を独占
 他の政党にも議席や閣僚ポストを与える

・「進歩国民戦線憲章」(1972年)
 「軍および武装部隊内で組織化や党活動を行わない」


 進歩国民戦線結成の狙い
 ・バアス党が、ライバル政党を政権内に取り込み、権力基盤強化を狙う
 ・政権との協力の是非を巡る対立や分裂を狙う(事実、多くの政党が分裂)

・「ハーフェズ・アサド学派」:前大統領の最も特徴的な政治手法
 潜在的な政敵の分断を促し、内部対立を静観し、政権に対する相対的な力を
 弱化させようとする戦略

・2000年アサド大統領就任演説
 1.加盟政党による機関紙発行、非政府系の数十の新聞、雑誌が創刊
 2.活動領域の拡大:地方、行政レベルでの拡大
  「学生に対する組織活動」が解禁、地方選挙への独自参加
 3.戦線拡大:「左派」限定を廃し、ナセル主義政党、大シリア主義政党などの
  民族主義政党の参加を認める


<第二節>「ダマスカスの春」との戦い

 2000年7月、アサド新大統領就任以来の変革の波
・担い手:「有識者」
・政治目標:「市民社会の確立」という共通項
・活動形態:「文化会議」:主催者の自宅で定期的に会合

・「基本文書」2001年1月12日:千名以上の有識者等の署名
 各地で文化会議開催
 これに対し、アサド政権は、「積極的中立」という寛容な態度で臨む
・政治犯600人への恩赦
 しかし、その後、文化会議への規制強化
・有識者の側の内憂:政治的・思想的志向の相違
・有識者10名の逮捕と裁判

 「反政府運動への前提条件の暗示」
 超えてはならない一線を提示し、体制側の許容する範囲内での活動なら
容認するというもの

 
 <私の感想>
 若きアサド新大統領は、それなりに、政治力を発揮したとも言えると思う。
・新たな、世界情勢に踏まえている
・父親よりは、柔軟な姿勢を示し、かつ実践した。
しかし、あくまでも独裁体制維持の為の、その範囲内のものに限定されていた。
しかし、反体制派の力が、それを超えるならば、限界を超える。
今の所、そこまで反体制側の力が昂じていないようだ。

 反体制有識者の限界の一つに、一般市民や一般労働者とは、
乖離したレベルでの運動作りということもあると思う。

「権威主義・独裁維持のための「多元主義」」バッシャール・アサド政権下のシリア
青山弘之(「中東・中央アジア諸国における権力構造」)(岩波書店)