この数ヵ月で一体どれだけ多くのイラクの一般市民の命が奪われたのだろう。
しかも毎日毎日だ。こんな状況は明らかに異常だ。
もし、反米武装勢力の内、レジスタンスという矜持がある組織なら、
こんな異常事態には耐えられない筈だ。
無差別テロを行っている勢力と縁を切り、戦うべきだ。
もはや黙認は許されない。
「別個に進んで一緒に撃つ」というのも、この場合、もはや欺瞞だ。

 無差別テロを行っていない地元武装勢力は、
@一方的停戦宣言
 (自衛の為の防衛的権利はもちろん保有しつつも)
Aテロリスト組織を排除する
Bその上で、合法的な反米レジスランス活動を行う。
 平和的な集会、デモ、選挙参加、労働組合運動、女性団体への支援

 確かに、占領への抵抗権は正当だ。
しかし、その闘争形態が、平和的な闘争形態であってもよいわけだし、
事実、非暴力のレジスタンスも確かに存在している。
 もちろん、ファルージャの掃討戦のように、街ごと包囲して殲滅するという
相手に対しては、正当防衛の権利は当然ある。
 しかし、数万単位の街の住民を巻き添えにするということは、誰にとっても、
悲惨な敗北局面だと思う。
 米軍にとっても、政府にとっても、レジスタンスにとっても。
あんな悲劇はもう二度と繰り返してはならないと強く思う。

 選挙に種々の問題点があったことは、確かだ。
しかし、今後、選挙に参加しない理由が理解できない。
欺瞞的な選挙になど参加する必要がないとの見解に対して、
レーニンは「左翼小児病」の中で、議会的手段を使った闘争形態を
否定する者達を諭している。
議会を種々の悪行の暴露の演壇にせよという革命的議会主義を述べた。
議会の場で、正々堂々と不正を暴き出せばよいではないか。

 アラウィ首相は、米に指名されたという傀儡性があった。
しかし、現在の新政権は、イラク国民が選挙で選んだものだ。
この事実を否定することはできない。
その上で、現政権に不満があるのなら、非暴力の種々の反政府活動を行えば
よいではないか。
 自らの主張が正しいと言うのであれば、民主的且つ非暴力のルールに則って、
正々堂々と主張し、支持を広げていく努力をこそすればよいではないか。

 もし、それができないというのであれば、むしろ私はスンニ派の政治的計算を
こそ邪推してしまう。
 イラク建国以来一環してイラク政治の主導権はスンニ派が独占してきた。
少数派に多数派を間接統治させるという帝国主義の古典的手法に則って。
今、民主的選挙に則ると、人口の二割のスンニ派に主導権を握ることは、
人口構成上は不可能であり、したがって、選挙に参加せず、むしろ、武装闘争
というかたちでの方が、自らの政治的要求を貫徹できるという政治主義、
政治技術主義的な極めて醜悪な発想と計算だ。
事実、そうなっていると言えなくもないと思う。
選挙に参加しなかったスンニ派も取り込む必要があるという配慮から、
スンニ派の閣僚が抜擢されている。
そうではないと言うのなら、民主的な選挙活動を行うべきではないのか。

人の数だけ正義はある。人の数だけ理想はある。
それはつまり、唯一絶対の正義も理想もないということだ。
自らの主張こそが最も正しいと主張するのは構わない。
しかし、主張の正当性を認めるか否かは、提起される側が決めることだ。
正々堂々と主張すればよい。しかし、民主的に非暴力で行えばよいではないか。
埴谷雄高は、「目的は手段を浄化するか」と問題提起した。
理想実現という美しい「目的」は、その為の汚れた「手段」を正当化できるのか
という問題提起だ。
勿論、正当化などできない。
否、むしろ、手段が汚れていれば、その汚れた手段の積み重ねによって
実現される理想自体が、汚れたものにしかならないということだ。
論理的には、個々の手段に目的が内在していない限り、
理想的目的は実現し得ないということだ。


 アフガニスタンでは、タリバン穏健派が、武装解除に応じ、
選挙にも参加しようとしている。
ムタワキル元外相は、カンダハルから立候補。
独立委員会のムジャディディ師は、恩赦を提言。
ヘクマチアル氏やオマル師への恩赦も提言。
現地の米軍は、
「アフガニスタンの統一と安定が実現されるのであれば、ムジャディディ師の
 立場を支持する」という声明を発表。
 米は、アフガニスタン政府がタリバン穏健派を政治プロセスに取り込む
という方針に対して、これを支持するものと思われる。

 アメリカも、アフガニスタンでは、穏健派タリバンの選挙参加を認めるので
あるから、停戦を申し出ているイラクのスンニ派地元武装勢力と停戦し、
その選挙参加を認めない理屈はないと思えるのだが、、、
 泥沼化を呈している現状で、アメリカにとっても、そう悪い話でもないと
思えるのだが、、、
 勿論、<アフガニスタン>と<イラク>の、二つの状況の
<同一性>と<区別性>を押さえた上で、考察しなければならないが。


米により、「テロリスト」と名指しされているハマスが、選挙で躍進している。
ファタハをも凌駕し兼ねない勢いだ。
レバノンでも選挙が行われている、ヒズボラも躍進するそうだ。

 テロリストとレッテル張りされる者達が、堂々と選挙に打って出て、
しかもかなりの数の民衆から得票を得て、正々堂々と合法的に、民主主義的に
戦っているし、躍進している。
それは同時に武装闘争から離れていくことでもあると思う。


 中東民主化というものが、一定程度は、確かに進展しつつあることもまた
事実だ。
 確かに、アメリカの御都合主義的なモメントもあるだろう。
それでもよいではないか。
言わば、それを逆手に取って、中東の民主化を進めればよいではないか。
中東の民主化は、中東の民衆の心から求めているものであるからだ。

 例えば、アラブの大義、シオニストとの戦いという口実で、国内矛盾を
排外主義的に外部に転嫁し、独裁政権を延命してきた。
中東のほとんどの政権は今まではそうだったのではないか。


 スンニ派武装勢力は、スンニ派宗教指導者層や政治指導者層と連結している。
穏健派層を表に立て、
<一方的停戦>→<停戦>→<復興・選挙参加・テロリスト排除>
という方向へ向かえないわけではないと思う。

 アラウィ政権では無理だったものの、スンニ派をも取り込んだ新政権では
無理だとも思えない。
 事実、新政権とスンニ派武装勢力との交渉が始められた。

 新たに国防相となったドゥレイミ氏。
ドゥレイミ部族は、ファルージャ近郊の大きな有力部族だ。
しかも、1995年、ファルージャのドゥレイミ族がフセイン政権に対して
反乱を起こし、鎮圧され、処刑者を150人も出した。

 ドゥレイミ氏は、ファルージャ近郊の有力スンニ派部族の力を背景にしている
と思われる。

 ドゥレイミ氏の国防相就任は、シーア派、クルドも合意している。
ということは、新政権が、スンニ派武装勢力に対して、
歩み寄りのサインを送ったものとも解釈は可能だと思う。

 スンニ派宗教指導者層は、イラク軍、イラク警察への参入を推奨している。
シーア派、特にSCIRIのバドル旅団に暴力装置のヘゲモニーを握られるという
現実政治の力関係への、現実的対応というモメントが大きかったと思う。
しかし多面同時に、スンニ派側からの歩み寄りのサインという解釈も
成り立たない訳ではないとも思う。

 つまり、双方からの歩み寄りの兆候がない訳ではない。

2004年4月のファルージャ停戦後、地元武装勢力の治安機関への編入という
かたちでの決着の方式。
 それを、現在的に再度、スンニ派武装勢力の治安機関への編入というかたちで
スンニ派武装勢力を取り込む方式。

クルドのペシュメルガ、SCIRIのバドル旅団、サドル派のマハディ軍などは
公認されている。
ならば、スンニ派系の武装組織の一定の公認化ということも妥当だとも
思えなくはない。
むしろ、民族・宗派間のバランスをとるという意味では、その方が安定すると
言えると思う。


 数百万人のパレスチナ人達は、半世紀以上にも及ぶ、辛酸を舐めてきた。
それでも、種々の勢力が辛抱強く、審議を重ね、停戦に合意し、
一応、停戦は守られようとしている。
 ファタハ、PFLP、DFLP、ハマス、イスラム聖戦、アルアクサ、
パレスチナ共産党等々、たくさんの組織が存在している。
様々な考え方が存在している。
実は、路線の違いは、各派でかなり大きい。
それでも尚、共同行動を積み重ね、統一戦線という観を呈してきた。
運動のその中で、路線の違いを、競争すればよいではないか。
例えば、オスロ合意、ロードマップに反対の立場でも、共同行動をとっている。
反対ではあるが、停戦に合意し、停戦を守っている。
その中で、自派の主張の正当性を主張すればよいではないか。
私は、そういう立場を支持する。


 チェチェンのマスハードフ元大統領は、一方的停戦宣言を行い、実行した。
しかし、ロシアに惨殺された。
一番の和平調停者を惨殺するとは、今後、更に悲惨な状況になるかもしれない、


強硬派からすれば、私の戯言は敗北主義だと罵られるだろう。
敗北で結構ではないか、一時的敗退でよいではないか、流血が止まるのなら。
臥薪嘗胆、数年後には、選挙でヘゲモニーを握ることは不可能ではない。
そういう努力をこそするべきではないのか。

私の戯言は、現実政治の前では、無力だろう。
現実政治のリアル・ポリティックスの条理では、
魑魅魍魎、謀略も横行している。
したがって、奇麗事のみでは、無力だとは思う。
周辺諸国が、イラクの混乱に自らの利害を見い出している以上、
周辺諸国からの「見えざる介入」は続く。
誰が、テロを行っているのか?
アルカイダ系、スンニ派武装勢力だけではないだろう。
イラン、シリア、ヨルダン、イスラエル、そしてアメリカ等々。
おそらくは、彼らによる「政治的謀略」も含まれているのだろう。
それならば、その謀略を暴くことにこそ尽力するべきではないのか。
非常に難しいことではあろうが、スンニ・シーア・クルドにとって、
つまり全イラク国民にとって無差別テロは共通の敵だ。
全イラク人が、正真正銘のテロリストを摘発し、
他国の政治的謀略を摘発することは絶対に不可能だとも思えない。
テロリストのアジトを摘発し、外国組織の関与を示す、文書、現物、組織成員
等々の物証を、全世界に提示するという努力にこそ傾注するべきではないのか。
例えば、イスラエルのモサドが関与していると言うのであれば、
その決定的な物証を執念で暴き出し、全世界に提示すればよいではないか。


 私は、単に流血を止めて欲しいという、安っぽいヒューマニズムから、
その願望を基底的動因として書いている。
それ故、無力なのであろう。
情勢分析もまた、その願望から行っている観も否めない。
しかし、今の私にはそれしかできない。
その願望が、私を衝き動かす全てだからだ。

現状は異常以外のなにものでもない。
様々な言い分がある。
どれか一つだけが正しい。
俺だけが正しい。
それもいいだろう。
しかし、違いを、「差し当たり」認め合い、
異常な流血の現実を停止するという、より大いなる結果を導き出す為に、
妥協することは、恥ずべきことではない。
いきなり、あるいは一挙に<本質的解決>を実現できなくてもいいではないか。
まずは、<現実的解決>で、現状を打開することの方が、より緊急性を持って
いると思う。


 平和な日本で、日々安穏と、のんべんだらりんと怠惰に生きている
無力な一市民である私が何をほざいても、ただ空しいだけなのだが、
それでも尚、言わずにはおれないのだ。

 スンニ派の人々に言いたい。

 サドル派の現在には、学ぶべきことが多々あるのではないかと。

 サドル派は、ナジャフ、カルバラ等で何度も米軍と激烈な死闘を繰り返した。

 現在は、米軍と停戦し、本拠地であるバグダッドのサドルシティでは、
米軍から復興資金3億ドルをせしめ、街の復興に努めている。
選挙にもうって出て、数議席ではあるが、獲得した。
更には、新政権に閣僚も出すという。
しかも、サドルシティでは、テロは一件も起きないという。
それが何故なのかは、分からないが、推測するに、公認されたマハディ軍が、
チェックポイントで検問しているのではないか。
そもそも、米軍と幾度も激烈に交戦したサドル派にテロを仕掛ける理由も
『口実』もないからだろう。

 その上で、しかも、米軍の早期撤退を堂々と主張している。

 そういうサドル派に大いに学ぶべきではないのか。

 2004年4月、シーア派のサドル派は、ファルージャに援軍を送った。
スンニ派の長老達は、「でかした若造」と賞賛したそうだ。

 父親と叔父との、ダブルの『七光り』のサラブレッドのお坊ちゃま君、
暴れん坊将軍だと思われていたのだが、なかなかやるではないか。
粘り腰で、したたかではないか。

 スンニ派の人々よ、再度言わねばならないのではないか、
「でかした若造、我々もお前に学ぶ」と。


 私は、サドル派を全面肯定はできない。
宗教勢力として、その実効支配地域では、市民生活レベルで、宗教色を強めて
いるものと推測される。特に女性への抑圧はひどいのではないかと推測する。
バグダッド・バーニングの著者も、サドル派の女性への抑圧ぶりを告発していた。

 是々非々である。
ある面を肯定し、ある面を批判する。
それでよいではないか。


 ヒジャーブを被っていない女性を小突き回すというのは、勿論肯定できない。
しかし、テロに脅えることなく、復興の進むサドル・シティで暮らすのと、
大義を掲げつつも、日々テロに脅え、米軍の掃討作戦の被害を被り、
インフラはほぼ破壊し尽され、生きるのと。

 それは勿論当事者が決めることではあるが、
「大義」は、一時、降ろしても、よいではないか。
名を捨てて、実をとるというのもよいのではないか。
もう既に命を捨てているムジャヒディンはともかく、
一般市民にはもはや耐えられないのではないか。
普通の市民が日々暮らせる状況を取り戻すことを優先するべきではないか。

 チェチェンでは、闘争の第一世代は、ロシアとも行き来があったので、
良いロシア人もいれば、そうではないロシア人もいるということを肌で知って
いた。
 しかし、第二世代以降にとっては、ロシア人=悪魔でしかない。
パレスチナ人の場合も似ているとも思う。
つまり、第二世代は、より妄信的な強硬派が優勢になっていく。
なにより、チェチェンの場合、民族そのものの再生産ができなくなっている。
学校・教育機関が完全に機能停止している為に、若い世代は、ほとんど
まともな教育を受けることすらできていない。
つまり、民族の伝統等を次の世代に、きちんと伝達することすら、できなく
なっている。
 これこそが、本当の民族の危機、民族そのものの存続の危機だと思う。

 スンニ派の人々よ
日々学校にもろくに行くこともできない次の世代
日々日常生活をまともに過ごせない一般市民達
日々の戦争しか知らない世代

 、、こんなことでよいのか?



 シスターニ師は、さすがに最長老だけあって、本当に思慮深いと思う。
圧倒的な軍事力を有する米軍の占領下で、いかに現実的に対処するかに
長けていると感心させられる。
 民主的な選挙を実現させ、イラク人に選ばれた政権を作った。
これが、シスターニ師の<第一戦略目標>であり、実現した。
では次なる<第二戦略目標>は、米軍撤退であろう。
「即時撤退」は、求めていないだけで、数年以内の撤退を、急がずに、
実現するだろう。

 米は、中東での橋頭堡確保に失敗することになる。
そうはさせない為に、米は、どう立ち回るのであろうか?
 
・<米>(共和党と民主党)
・<シスターニ師>と<シーア各派>
・<スンニ派>
・<クルド>

 この四実体を措定して、その
・打ち出す<政策>
・動向
・発言
 等々を、じっくりと分析しなければならない。

 個別的問題としては、
・憲法とシャリーアについて
・キルクークの実効支配を巡って

 今後の課題としたい。

反占領の非暴力直接行動という闘争形態もある