2003年11月29日、イラクで何者かに殺害された、奥氏の、
4月23日から11月27日までの日誌です。
外務省のHPで公開されているものです。
「自分の地区の下水処理ポンプを売り飛ばさなければならない程の困窮振り
なのです。自分自身を略奪してしまっているのです」(p.62)
「戦争が終わっても良くなるどころか、かえって生活基盤は悪くなっているため、
自由は手に入れたものの、尋常ならざる暑さと相まって、住民の忍耐は限界に
来ているようです」(p.124)
「サマーワにも5カ所の大量殺害者の墓地があって、クルド人とシーア派イラク
人4500人が埋められていた」サマーワのダフィ市長談(p.158)
「治安や電力供給といったライフ・ラインが維持できない占領当局に対して、
一般のイラク人の苛立ちは限界に近づいていました。自由は手に入れても、生活
基盤は戦争前より悪化したために、当初の米軍歓迎ムードがかなり薄れてきてい
たのです」(p.192)
「各地でマス・グレイブ(大規模墓地)と呼ばれる大量の死体埋葬場所が発見さ
れるたびに、サッダーム政権下でどれほど多くの人が犠牲になってきたのかを
改めて思い知らされます」
「「私たちは今とても苦労しているけど、サッダーム政権がなくなったことだけ
は本当に嬉しく思っている。外国人のあなたに、そのことだけは伝えておきたか
った」と流暢な英語で話しかけられたことが今でも忘れられません」(p.203)
戦後、長年続いたサッダーム体制から解放され、自由を手に入れたイラク国民。
その開放感は本物でした。
しかし、自由では空腹は満たされません。
生活基盤が戦前よりむしろ悪くなったので、占領軍への反感が昂じてきます。
それでも、やはり自由は本当に手に入れたかったものなのでしょう。
その感動は何物にも変え難いものですね。
<自由>と<生活>、現在に於ける両者の矛盾。
「イラクはサウジアラビアに次いで埋蔵量世界第二位を誇る産油国です。
おまけに、採掘コストが大変安いので、石油の大量産出に向いています。」
「多くの人が、今回の戦争の目的は米国としてイラクの石油を手中に納めること
だと指摘していますが、イラクでは約80の油井が開発可能で、現在までに、
まだ、17ヵ所しか掘られていないようです。日本も採掘権に関心があるところ
ですが」(p.90)
アメリカの石油戦略という背景にも言及しています。
「安保理での議論に踏まえ、CPA(連合暫定当局)との関係を悪化させない
範囲で徐々に、イラクの政治プロセスに国連としての関与の度合いを強めていく、
難しい役回りですが、デ・メロ特別代表ならやり遂げるでしょう」(p.103)
「「政治プロセスにも関与する」と繰り返す特別代表の言を耳にして、「張り切り
すぎて大丈夫だろうか。ブレマー長官との役割分担がさぞ難しかろうな」などと
気を揉んだものです」(p.197)
「「米国一極の世界では、国連は米国の支持なしには無能の存在だ」という批判は
よく耳にします。あながち全面否定できないことは今回のイラクへの武力行使
決定をめぐる経験をみても明らかです。しかし、(中略)国連という機関の役割
が必ずや大きくなってきます」(p.199)
一超大国アメリカと国連の両者の現段階の難しい関係性についてもよく認識
していますね。
突出するアメリカ、追随するしかない国連。
両者の微妙な関係。
しかし、奥氏は、やはり国連の重要性を深く確信しているようです。
「毎週日曜日の午後2時から全体会合を開いて、地域のありとあらゆる問題に
ついて、評議会員同士、また、米軍との間で話し合っています。このような米軍
の活動は日本ではあまり報じられていないようです。ですから、イラクの一般の
人には米軍は受け入れられていない、といったイメージが出来上がっているよう
ですが、実態はかなり異なります」(p.112)
「イラク人関係者にとってはとまどいの多いことが続くようですが、着実に、
透明で民主的な予算プロセスを歩みつつあるようです」(p.150)
徐々にではあれ、イラクで下からの民主化が創造されつつあるようですね。
その他、インターネット・カフェが繁盛しているのも、民主的な情報を求める
イラク国民の希求なのでしょうね。
ソ連・東欧圏崩壊に一役買った現代の情報社会化・インターネット。
北朝鮮もそうですが、独裁者には情報統制が付き物ですからね。
「ヒッラの街の南方で約1万5000体の虐殺遺体が発見されたと報じられ
ました」(p.68)
「この12年間(湾岸戦争後)、行方が全く解っていないクウェートの人々が
605人もいるのです」(p.74)(クウェート人は90万人)
クウェートは戦争終結前から人道支援物資を送っていました。その箱に、
「さりげなく行方不明者の名前を記した箱を送っているのです、恩讐を超えて
ということでしょうか」(p.76)
「バース党員になった人達の中には、思想信条の問題としてサッダーム・フセインを
礼賛している訳ではなく、自分の職場である程度の地位を得るために仕方なく
党員になった人も多いと言われています。そのような人達まで一気に排除して
しまうと肝心の組織が動かなくなってしまいます」(p.78)
「韓国内では、米軍への反発からあまり表だって協力姿勢を見せられないため、
イラク復興支援の現場に兵員を派遣することで、韓国としての対米重視の姿勢を
示しているのかもしれません」(p.86)
「何時の日か聖火が、イラクや、パレスチナ、イスラエルを通って民族の違いを
乗り越えて手渡されるようなルートが実現する日がくれば、平和の祭典にふさわ
しいことではありませんか」(p.96)
「戦争終結後も、イラク・ディナールは米ドルとの関係で、高止まりし、むしろ
ドル安に動きました」(p.108)
「現在4000人のイラク人警察官が採用されていますが、ゆくゆくは5万人
規模にすることをCPAでは考えています」(p.141)
「イラクの公務員は省庁に勤める人達だけでなく、「会社」勤めの人も入れて
考えなければいけません」(p.148)
蘭軍は、「CPAが行っている民政に直接参加することは、議会で認められて
おらず、占領軍としてジュネーブ条約上の義務を負っている治安維持活動のみが
許されている、という立場です。つまり民生面での蘭軍の参加は法的に認められ
ていないという考え方です」(p.157)
「イラク便り」奥克彦(産経新聞社)
