『非武装地帯に放置された装甲車の車輪が、地元民によって回収されて、
 バグダッド市内の市場で活躍している大八車のような車輪に使われている』
 (p.13)

『以前は赤ちゃんが生まれると両親は、まず男の子か、女の子かを聞きました。
 でも今では、まず正常か異常かを聞くのです』(p.14)

「精密誘導兵器の命中率など85〜90%に過ぎないのだから」(p.54)

「私たちはイラク政府の側に立った取材をしたいわけでもない。またイラク政府
 を防衛するために、あるいはそのメディア戦略、情報戦に参加するためにバグ
 ダッドに来たわけでもない。だからこそ情報省の役人とのせめぎ合いをせざる
 を得ないし、すでに何人ものジャーナリストがカメラ没収や国外退去の憂き目
 に遭っている」(p.55)

 ピーター・アネット記者は「米NBCテレビの専属契約を解除されてしまった
 。三月三十日にイラク国営テレビのインタビューに応じて、『米英軍の作戦は
 イラクの抵抗により今のところ失敗に終わっている』と発言したことが問題と
 なったという。その日の段階ではNBCも『発言はよく分析されたものだ』と
 言っていたのに、翌31日に彼を解雇したというのだから、アメリカの報道
 自由の程度も知れる」(p.56)

「こいつ本当は袖の下が欲しいのか?と疑ってしまうほど、その規則と権力を
 笠に着た非論理性に腹が立つ」
「こうなると人間の心理は怖い。私もふと思わず、どうせ情報省への爆撃をやる
 のなら、早くやって欲しいものだなどと思ってしまうのだから」(p.60)

「アメリカはイラクに対してのみならず、「捕虜」についてどれほどジュネーブ
 条約違反を繰り返しているかは、アムネスティなどが警告する通りだろう」
 (p.63)

「現在のところ、確かに「誤爆」率は15%に収まっているのかも知れない。
 しかし、この15%に入ってしまった者には、「率」は関係ない。死は死以外
 の何ものでもないのだから。この日の死者が七名。彼らには今さら「15%」
 は何の意味も持たない。100%、そのものだ」(p.74)

「毎日の記者会見で発表されるイラク各地での被害状況は、本当はやはりこの目
 で確かめないとわからない部分が大半だ。確かに限られた取材の延長線に想像
 を巡らせば、どれほどの悲惨が人々に襲い掛かっているか、とは思う。しかし
 、本当は、その悲惨の一つひとつを丁寧に取材しなければ、ここに来られない
 多くのメディアの受け手に理解を促すことができるのか、とも思うのだ」
 (p.106)

 路上の物売りのおばあちゃんは、『戦争であまりお客が来ないから、むしろ
 値段は下がり気味だ』と意外なことを言った」「マスコミ情報とはまた別に
 庶民の論理で左右される生活実態というものもあるということ。やはり少し
 でも「現場」に出なければわからないと反省」(p.107)

「幼稚園の園庭にもクラスター爆弾がばら撒かれていようとは」
「消防士たちがクラスターの不発のこども爆弾を回収している」(p.114)

『お前たちの写真は、お前たちの記事は、何の役に立つというのか。毎日米軍が
 爆撃しているというのに』
「私の写真がこの空爆を止めることに寄与することははじめからあり得ない。
 もどかしくもある。せめて「次の戦争を止めるため」には役に立ちたいと願っ
 てはいても、殺された人が生き返るわけでも、失われた腕や足が戻るわけでも
 ない」(p.119)

「イラクの情報管理に代わって、これからはアメリカの情報操作の駒に使われる
 可能性があるということだ。その象徴は、「サダム像引き倒し」だろう」
(p.128)

「バグダッド陥落前には不発弾を処理する消防のレスキュー隊がいた。今、無政
 府状態の中では、警察ばかりか、公共交通も消防もなくなってしまった。誰が
 責任を取るのだろう」(p.146)

「『アリババ(略奪者)が出入りしているんだ。近所の人たちと交代で周辺の夜
 のパトロールもしている』と自警団を組織して地域を守らざるを得ない状況を
 嘆いた」
『イラクの人々が全員ドロボーしているわけではないからね。アリババは一割
 にも満たないんだから』
「病院の門の所には、白衣を着てカラシニコフ自動小銃を構えた男たちが、数人
 守衛のように警備についている。聞けばみんな周辺の住民で、ボランティアで
 病院を略奪から守っているのだという」(p.148)

 一週間前にA10攻撃機のバルカン砲を打ち込まれた計画省の資料室で、
「ガイガーカウンターを出してスイッチを入れる。静寂の中にガリガリと警報
 音が響く。怖い。何も見えない、何も匂わない。しかし、この部屋には間違い
 なく放射能が満たされている」(p.162)

 カルバラでは、
「市内は、いたって静かで落ち着いている。バグダッドと異なり、ここではほと
 んど略奪もなかったという。「ハウザ」と呼ばれるイスラム神学学校組織が
 住民自治を組織しているからだという。イラク国家は崩壊したかもしれないが
 、ここでは社会は崩壊も解体もしていない」(p.163)


 帰国後、豊田氏は広島大学で尿検査を行うが、検出されたウラン238の量が
自然界との有意差を認められるほどの量は検出されなかった。

「イラク戦争の30日」:豊田直己(七つ森書館)