<プロローグ>
「イラク戦争で唯一無傷で残ったのは石油省や関連国営石油会社で、しかも
 有能なテクノクラートや専門家、技術者も無事であった」


 <第一章>「中東の変革」を目指すブッシュ政権
「アラブ連盟に加盟している22カ国には、一カ国たりとも民主主義はない」
(ブッシュ政権高官)

・1000万人のアラブの子供達が学校に通っていない
・6500万人もの親の世代は読み書きができない
・コンピューターを利用できるのは人口のわずか1%
・インターネットにアクセスできるのはその半数
・アラブ世界の女性の半分以上が読み書きができない
 (パウエル国務長官)

・ネオコン派とユダヤ研究所とキリスト教右派の連合
・対テロ戦争とは、
 ・政権の目的はアメリカの安全保障と国益に対する脅威の除去
 ・ネオコン派にとっての目的は中東政治の変革に正当性と手段を与えること
・ネオコン派とは
 ・イスラエルが中東で唯一の民主国家
 ・単独行動主義
 ・潜在的脅威国の政権交代を促進すべき
・ネオコン派の目標
 1.戦術的目標としてのイラク
 2.戦略的目標としてのサウジ
 3.エジプト
 第一段階:フセイン政権の打倒とイラクの民主化
 第二段階:サウジの王政改革とヨルダンのパレスチナ化
 第三段階:シリア、エジプトの民主化
 第四段階:イランに対する圧力強化
「ブッシュ政権による民主化要求がこれまでと異なるのは、中東の親米政権まで
 もがその対象とされていること」

「全アラブ諸国のGDPを合計してもスペイン一国よりも小さい」
「今後十年をめどにアメリカ・中東自由貿易圏を創設」
(ブッシュ大統領)

・1999年ウィーンでのOPEC総会
 イランとサウジの歴史的和解、その長期的政治的価値
 更にはタカ派のベネズエラも抱き込み、
「サウジ・イラン・ベネズエラ枢軸の誕生」

アメリカは「ロシアをOPECから価格決定力を奪取する協力国及び中東不安定
時の石油供給のヘッジ先と見なし始めている」 
アメリカはカスピ海3国にも期待:「ある程度中東に代わる供給源になり得る
ことに加えて、対ロシア・カードとしても活用できるから」
「カスピ海は『第二の中東』ではなく『第二の北海』と位置付けられている」
「北海の石油資源が1980年代後半から90年代を通してOPECへの対抗力
 として果たした役割を考えれば、カスピ海周辺地域は相応の重要性を持って
 いる」


 <第二章>アメリカを悩ますイラクの抵抗運動
「イラク治安組織には約10万人が属していたが、このうち2000人が無収入
 で、しかも免責される見込みもないことから絶好の(テロ組織の)勧誘の対象
 となっている」(ニューヨーク・タイムズ紙)


 <第三章>難航するイラクの復興事業
イラクの将来のエネルギー収入を担保とする融資は、ソ連崩壊後に策定された
ものを雛形としている。
 しかし、対イラク石油担保融資については、「正当性を持つ政府の存在が必要
。国連安保理の決議はアメリカに対して、イラク国民がそのような融資を受ける
との権限を与えていない」
「貧しいイラクの国民が、ウォール・ストリートの金融機関やアメリカの大手建
 設会社の株価を上昇させるために数十億ドルの債務を課せられるという構想に
 は怒りを感じる」
「1918年の第一次大戦終了後のそうした取り扱いが結局アドルフ・ヒットラ
 ーを生んだ」
世界銀行も、そのような融資はイラク人が主権を持つ政府の設立後にすべきとの
立場をとっている。

 イラクの復興に要する資金は900〜1000億ドル
今の所、イラク復興に振り向けることのできる資金は、
・17億ドル:アメリカが経済制裁で凍結(2億ドルは既に引き出し済み)
・11億ドル:その他の諸国が凍結した資産
・10億ドル:イラク前政権が秘匿
・10億ドル:オイルフォーフードの国連保有
・12億ドル:イラク資産凍結の再呼びかけで判明
・24億ドル:米議会が国防総省の追加予算として承認


 <第四章>イラク石油産業の行方
石油産業の民営化については、三つの構想を議論している段階
・アラスカ型(ロイヤリティの50%を市民に還付する方式)
・ノルウェー型(確認埋蔵量の20%相当を民営化)
・ロシア型(完全な民営化)


 <第五章>対米関係を見直すサウジアラビア
 ブッシュ政権の
・中東依存度の低下を目指したエネルギー政策
・民主化を指向した中東政策

・9.11遺族がサウジ王室等を損害賠償訴訟
・「アメリカを変更のできない戦略的選択とすることに疑問を呈したい。国際的
  な戦略関係を改める必要がある」(サウジ紙)
・在米サウジ資産の国外流出(数百億ドル)


 <第六章>改革の要求に揺れるサウジ内政
 2003年1月アブドゥラ皇太子にサウジ知識人グループが改革案を提示
・権力の分散
・国民の直接選挙で選ばれた議員で構成する諮問評議会が監査役として機能
・独立した司法制度
・表現の自由
・基本的人権の尊重
・女性の地位の向上・女性の権利の保障
「宗教界のお墨付きを統治の正当性の拠り所とするサウド家は、進歩派の求める
 改革と保守派の訴えるイスラムの徹底の間で揺れ動いてきたのが実情」
 したがって、改革は、「様子を見ながらの漸次的な動きとせざるを得ない」
 地方議会選挙の実施についても議論(一年以内実施の閣議決定)

・国民がイスラム的な生活を行っているか監視するために、平素は大手を振って
 市内を巡視している宗教警察(正しくは「完全懲悪委員会」)

・リヤド爆弾テロ以降は、アルカイダを徹底捜索
・イスラム原理主義思想を説く宗教指導者数百人を解雇
・アルカイダの共鳴者、支持者は、「サウジ国内での支持は強い。政府の上層部
 にはいないが、治安組織、特に内務省の中間レベル、下層レベルでは根強い支
 持がある」
・サウド家の王子・王女は合計2.2万人


 <第七章>悪循環の続くイスラエル・パレスチナ
・ブッシュ政権は従来の政策を転換し、パレスチナ自治政府に対して初めて直接
 援助を行う方針を打ち出している
・イスラエルは2000年を転換点としてマイナス成長へ
・イスラエル企業もイラク戦後復興事業への参入を希望(水濾過装置は既に販売
・イスラエルのトルコ・インドへの接近


 <第八章>守勢に立たされる中東諸国
・イラン国内での体制批判
・経済大国を目指すエジプト
・湾岸小国の民主化の試み
 バハレーン、オマーン、カタール、クウェートでの民主的選挙


 <第九章>祖国を憂える在外イラク人達
 筆者のイラク人ビジネスマンの友人は、
「イラクはすべてが変わった。この35年で初めて自由が訪れ、人々は何でも
 話せるようになり、生活もよくなろうとしている」
「しかし、同時に、今日のイラクは歴史上、初めて誰も支配していない国家とな
 った」
「これまでのイラクは、独裁者に次ぐ独裁者の国家であった」
「だが馬鹿なことに、やっと独裁から解放されたと思ったら占領が始まった」
 イラクを解放してくれた連合国に感謝はしつつも、他方で略奪や破壊活動とい
 う事態を招いた責任も厳しく問うている。
「最新の軍事技術を持ち効率的な米軍が毎月約40億ドルも支出してもなぜ治安
 を保てないのか理解できない」
「世界唯一の超大国がそんなこともできないとは想像だにしなかった」
「略奪や破壊行為の発生はCPAの責任だ」
「アメリカの戦争計画は素晴らしかったが、平和計画はなきに等しい」
「略奪されたイラクの銅線が近隣諸国から輸出されている」
「今ではイラク国民の中には、アメリカは意図的にイラクの治安を悪いままに
 しているのではないかとの見方が台頭している」
・自爆テロの続発という点ではイスラエルを
・外国テロリストの関与の可能性を示唆する点ではアフガニスタンを
・民族・宗教対立の兆しが窺える点ではレバノンを想起させずにはおかない

 イラク石油販売公社前総裁のラムジ氏は、
・OPECは世界の石油需要の増加メリットを享受していない
・30%ものユーロ高でOPECの手取りもその分目減りしている

 イラク復興開発委員会委員は、
「ネオコンを批判するよりも、何もできなかった非ネオコンの不甲斐なさを責め
 るべきであろう」
「国際社会の中には国連を『神聖な切り札』『魔法のカード』と考えている人達
 がいるが、それは正しくない」
「自分は暗殺される前のデメロ国連特別代表と話し合ったが、同氏は『自分は
 イラクで国連がいかに嫌われているか知っている』と述べていた」
「イラク社会は部族、聖職者、バース党でできいたのであるから、これらを否定
 しては安定は望めない」

 英国人中東専門家は、
「イラクの歴史上シーア派が協力した政権はなかった」
「トルコ軍のイラクへの派遣については、トルコ軍の内部でも賛成派と反対派の
 対立がある」

 在英のイラク人石油専門家は、
「イラク国内のテクノクラート達はほぼ民営化案に反対している。ナショナリズ
 ムと自分達の技術・ノウハウ等への自負があるからである」


 <第十章>高まる中東諸国の日本への期待
 日本では高齢化が問題だが、湾岸では反対に若齢化が進んでいる。
 湾岸産油国では自国民に占める19歳までの比率が50〜60%に、29歳ま
での比率が70%前後へと高まっており、これが10年後にはさらに激しく進行
する見通しである

 在ロンドン反イラク政府組織の高官達は、
「我々は仏独等の反戦の姿勢については、これら国家がイラク国民に解放をもた
 らす別の選択肢を提示しているわけではないから大変不満を覚えている」
「フセイン政権下で締結、交渉された開発契約は、イラク国家やイラク国民のた
 めになるとの経済的観点からなされたものではない。それらは、主にどの国家
 が国連経済制裁の解除に尽力してくれるかという政治的判断によって決められ
 たものである」

・湾岸諸国へ経済進出する中国

「石油地政学:中東とアメリカ」畑中美樹(中公新書ラクレ)