<はじめに>
・石油危機後中東の資源ナショナリズムの高揚で国有化され、石油メジャーの
 力は激減
・国際石油市場が出来上がっている。どこでも容易に調達できる。
・石油は流通性・流動性の高い商品である。
・「石油の供給は二国間ではなく、国際市場を介した多国間の観点から論ずる
 べき」というのが石油専門家の常識


 <第一章>石油をめぐる地政学とは何か
・OPECには最早価格決定力はなく、国際市場が決める
 しかし、国際市場の投機的な動きによる価格乱高下をいかに制御するか
 石油は最早「戦略物資」ではなく「市況商品」
・その背景には先進諸国の石油備蓄制度の法制化


 <第二章>なぜ米国は石油に政治介入するのか?
・米国の中東石油依存度は一割台
 (現在はカナダ・中南米・西アフリカ・ロシア・カスピ海地域等)
 しかし、石油国際市場が世界単一であるため、中東地域で一朝事あれば
 国際石油市場は大混乱になり、その限りで米国も損害を被る
 
「日本では、米国は自分の利益を追及するために勝手気ままに中東湾岸やカスピ
 海地域に政治的・軍事的コミットメントしているというような論調が根強いが
 、現実には米国は米国以外の石油消費国全体の利害を好むと好まざるとにかか
 わらず背負って、これらの地域にコミットしているのであって、米国の政策を
 批判する際には、この基本的な構造をしっかり認識した上でなされるべきであろう」

・油田の新規開発という自転車操業的性格(国際石油市場の本質理解のために)
 一本十億円程度の探査抗井を平均数十本掘削してはじめて商業化
 「賭博的破産の法則」確率論的性格

・石油の輸出国と輸入国の組み合わせパターンは、短期間で大幅に変わりえる
 産油国が地理的にどこに位置していようが本質的な問題とはならない
 (73年の石油禁輸が実効力を持たなかったのはそのため)

・メジャーのシェアーは10%
・OPECのシェアーは40%弱
 現在のOPECは価格暴落を防ぐためのものにすぎない
・中東湾岸のシェアーは30%弱

 2002年10月時点では産油国は、
 1位 ロシア
 2位 サウジ
 3位 米国
 4位 イラン
 5位 メキシコ
 以下 ノルウェー、中国

・スポット取引が国際取引の四割を占める
・「市場の再配分機能」(ほぼ一物一価)
 危機時における市場機能による再配分・価格メカニズムによる不足地域への
 転売・穴埋め
・石油先物市場価格が世界の石油価格変動を先導している
・需給のバランスの変動で価格は変動
 (短期的な需給の価格弾力性が小さい)

・「米国による近年の世界石油戦略の主たる目的はあくまで、国際石油市場の
  正常な機能維持であった」
 (カスピ海地域での政治的介入はあったが)

・米国特有の国内事情
 ・国内ガソリン事情:日欧のガソリン価格は半分以上が税金、しかし車社会の
  米国では半値以下、したがって価格変動が大きくなる
  これは、”選挙の票”と密接に関連する重大関心事。
  事実99年から2000年の大統領選挙の争点にもなった

 
 <第二章>石油同盟と化す米ロ関係
・北海油田の黄昏
・ロシア産石油の復活
・石油採掘技術革新(極地・深海・水平抗井技術等)

 サウジの余剰生産能力は、国際石油市場の安定にとっては当面必要。しかし、
「ロシアによるサウジの全面代替は無理にしても、国際石油市場におけるサウジ
 のウェイトを下げることによって、中東湾岸産油国の一国が機能停止した際の
 国際石油市場の混乱を最小限化するための方策は可能であり、これにより、中
 東地域に対する政治的・軍事的な意味での政策、例えば対テロ戦争のフリーハ
 ンドをできうる限り可能にする環境づくりを現米政権が真剣に目指し始めた」


 <第三章>さらに不安定化する中東
・サウジの将来に不安要素があるので投資意欲の減退した国際石油会社
・9.11以降のパレスチナ情勢等に関する国民感情を背景に欧米に歩み寄り難い
 サウジ。
 この両者の妥協が困難になりつつある
・中東原油のマージナル化:中東での油田開発投資停滞
 国際石油会社は石油天然ガスの宝庫たるイラン・サウジに強烈な投資意欲が
 数年前には確かにあった。しかし、現在はイラクで親米政権に変われば、こち
 らの方が美味しそうな石油利権が取れるだろうから、ここで無理をしてイラン
 やサウジに投資する必要はないと考えている。
・サウジ国内状況:人口増加が著しく、失業率が上がっている
・9.11被害者からサウジ王族への損害賠償訴訟
・今後、ロシア、カスピ海、西アフリカでの石油増産が予想されるが、そうなる
 と、サウジにとっては、石油価格は下落するか、減産するか、いずれにしても
 石油収入減少。国家体制は脆弱・不安定化。

・日本では、テロは貧困が招くという議論が多いが、そういう要因もあるが、
 むしろ、実際のテロ実行犯をよくみると、ほとんどが裕福な家庭の出身であり
 、最高度の教育を受けた者の方が多い。裕福で教育があり、欧米の実態をよく
 知っているがために、テロ組織へと向かうとも言える。


 <第四章>大きな攪乱要因、中国
・世界第七位の大産油国中国、石油輸出国から輸入国へ
・国際石油市場における需要側の台風の目
・新疆ウイグル自治区のタリム油田が、予想より埋蔵量が少なかった。
 これが中国の長期的石油戦略の見直しへ
・新規油田開発:渤海
・米国に対する政治的フリーハンドを保つために、海軍力を増強して独自のシー
 レーン防衛を果たそうとしたり、排他的輸送ルートを確保しようとする可能性
・中東原油をミャンマーに陸揚げし、陸路パイプライン構想
・中国は石油備蓄を持たず、石油危機を経験していない

・その他の不安的要素
 ・カスピ海沿岸諸国:独裁政権で不安定
 ・西アフリカ産油国も不安定
 ・ベネズエラのチャベス政権は左翼民族主義で反米的
 石油供給地は政治的リスクの高い国へ重心が移っていく

「世界を動かす石油戦略」石井彰/藤和彦(ちくま新書)