「イラクと日本」宮田律(集英社新書)680円+税

多民族・多宗派国家であるイラクを一つにまとめるには、独裁者サッダーム・
フセインのように、常に対外的な戦争を遂行し、それに国民を動員するという
ことが、有効だったとも言えるとは思う。長期独裁政権の一つの大きな要因だと
思う。
 それと少数派スンニ派が支配層になるというイラク歴代の慣習とも結びついて
いると思う。
 
 アラブ・イスラム諸国は、ムスリム同胞を殺害した米英軍のイラク占領・統治
に協力すれば、自国民から政府への抗議が巻き起こり、政権基盤が揺らぐ危険性
がある。

 国民皆兵だったイラクでは、誰でも武器に関する知識や技術を持っている。
しかも、治安の悪さから、現在のイラクでは武器を所有することは、
必要であり、合法だ。
 親・兄弟・子供・親戚・親友等を殺害されれば、米軍に対する武装抵抗運動に
加わる動機を与えられることになる。
 「同価報復」は彼らの価値観だ。部族による「復讐(サル)」

「米軍がイラクで戦闘行為を行い、民間人に犠牲者を出せば出すほど、イラク人
 たちを武装闘争に駆り立てる」(アナン事務局長)

「文民だけを派遣して、現地やイスラム諸国の警官などに警護されながら復興
 活動を行ったほうが、日本人がテロに遭う可能性はより低くなるだろう」

 バアス党は、南イエメンやパレスチナ人民解放戦線(PFLP)左派を支持し
ていた。

 イスラエルが核兵器を所有していることは、『公然の秘密』だ。イスラエルの
核兵器所有は不問に付して、イラクの大量破壊兵器を云々することは、アラブ側
からみれば、全くの「ダブル・スタンダード」でり、欺瞞そのものだ。

 2003年6月、国連は、イラクの医療システムが戦前の30%から50%
しか稼動していないと窮状を訴えている。

 13年間にも及ぶ経済制裁下で、ブラックマーケットが発展し、犯罪者集団の
活動が活発化していた。

 アメリカ主導の占領行政が続く限り、国連が復興活動を行っても、国連はアメ
リカと一体視され、軍事的な攻撃の対象となる可能性がある。

 国際機関への攻撃はイラクの復興を極度に困難にしている。
国連・国際赤十字・NGOが撤退していく。
復興の実が上がらなければ、米英軍の占領行政に対するイラク人の苛立ちは更に
強まり、米英軍への反発が高まることを「抵抗勢力」はよく心得ている。

 サドル師はムフタート(学生)という一番下位の位階である。

 人質戦術は、80年代のレバノンのシーア派原理主義勢力の手段だった。

「アメリカが武装勢力を軍事力で根絶やしにすることは困難であろう。武装勢力
 や民間人に犠牲者が出れば出るほど、アメリカへの報復を考える新たな武装勢
 力が生まれていくだけである」
「ファルージャでの軍事作戦で多くの民間人の犠牲者を出したことは、イラク
 戦争の正当性そのものを国際社会に見直させる機会になったに違いない」

「アメリカは、フセイン政権とイスラム過激派の関係を十分証明できなかった
 にもかかわらず、イラク攻撃のひとつの口実にした。しかし、現実には、イラ
 クとイスラム過激派の関係をもたらしたのは、皮肉なことにアメリカのイラク
 攻撃だった」


・コソボの「タリバン化」現象
・グアンタナモにいる三分の二はサウジアラビア人
・21歳から41歳の教育程度の高いサウジアラビア人の95%がビンラディン
 を支持
・サウジの軍事費はGDPの13%
 (イスラエルはGDPの9%)
・サウジは2004年10月までに地方評議会選挙を行う予定
 議員の半数のみを選ぶという限定的なもの=『ガス抜き』
 地方評議会開設は1975年に法成立

「イラクと日本」