「バグダッド・バーニング」(出版:アートン)1500円+税

 筆者はバグダッド在住、24歳の女性、コンピューター会社に勤務していた。
 現在は失業中。
 ネット上でブログを公開中。http://riverbendblog.blogspot.com/
 日本語に翻訳したサイト:
 http://www.geocities.jp/riverbendblog

 本書は2003年8月から2004年5月までを収録。

 女性の立場から、米軍とイスラム原理主義の双方を告発している書だと思う。

 女性の立場ならではの観察も多い。イスラム原理主義の台頭による女性の政治
的・経済的立場の後退に対する危機感も強い。
 現在のイラクでは女性は外出するのさえ、家族の同意、誰が同行するか等々、
様々な制約がある。

「戦争前、バグダッドの女性の約55%がヒジャーブ(スカーフ)を被っていた
 。以前はヒジャーブを被るかどうかは個人の自由だった。男性は娘や妻や姉妹
 にヒジャーブを被せている。抑圧するためでなく、守るために。」(8/23)
「ヒジャーブの目的は、女性をセクシャルハラスメントから守ることだ。一種の
 セーフガードとしての働きがある」(10/1)
「イラクでは男女同一賃金だった。」(8/24)
「占領開始以来、バグダッドだけで400人の女性が誘拐された。この数字は
 報告されたものだけだ/。たいていの家族は誘拐を米軍に届けない。無駄だと
 知っているからだ」(8/29)
「誤解しないでほしい。クルアーンとムハンマドによる原姿のイスラム法は、
 女性に永久かつ固有の確たる権利を認めている」
「イラク憲法の下で男性と女性は平等。世俗法であるこれまでの家族法の下では
 、女性は離婚権、結婚権、相続権、親権、離婚扶養料取得権を持っていた」
(2004/1/15)


イスラム原理主義団体といっても、数多くの団体がある。
反米武装闘争も行っているが、同時に強盗・略奪も行っていると訴えている。
・4月から6月にかけてチャラビのINCの民兵が車を『押収』し、転売
「イスラム国家・イスラム原理主義に回帰している。原因は恐怖心と失業のため
 。失業率65%のイラクで、イスラム原理主義グループは『支持』と引き換え
 に、『賃金』を支払ってくれるからだ。『支持』とは、投票、爆破、押収、誘
 拐、乗っ取り、、、を意味する。」(8/23)
「南部のシーア派はイラン戦争で何十万という犠牲者を出した。SCIRI=
 ハキームとバドル旅団を激しく憎む人々がいる」(8/29)
「ハキームがイランから帰国して以来、彼に敵対するようになった地位の高い
 SCIRIメンバーが大勢いるという」(8/30)
「2日前、バグダッドのベリディヤート地区で、バドル旅団によって女性の校長
 が2人、”処刑”された。」(9/9)
「試験中の学校にサドル派やハキーム派などの過激派が侵入して、”サーフィラ
 ート”(ヒジャーブを被っていない女性のこと)を試験会場からつまみ出し、
 脅している」(9/16)
「誘拐の黒幕は誰なのか。多くはサドルのところのならず者かSCIRIの暴力
 団の仕業」
「サドルは南部およびバグダッドを震撼させている。彼は恐ろしい。中流以上の
 イラク人の大多数が非宗教的な政府を望んでいる一方、サドルは南部の失業中
 の人たちやバグダッドのスラム街の人たちなどの貧困層の共感を得ているよう
 に思える」(10/25)
「イラクの人々は自分たちがアフガニスタンのようになるのではないかと恐れて
 いる。現在CPAがいちゃついている原理主義グループがイラクのタリバンだ
 からだ」(10/29)

 私は、サドル派には反米武装闘争=レジスタンスという側面も確かにあると
思うのだが、筆者は、サドル派の無法ぶり、抑圧者、特に女性への抑圧者という
側面を訴えている。彼らは『イラクのタリバン』だと。

 米軍に対しては、
「みんな家宅捜査を恐れている。何が起きるか決して予測できないからだ。
 対応を間違えば撃たれるかもしれないし、何が間違った対応かもわからない」
「国連平和維持軍を導入して米軍を撤退させてほしい」
 (2003/8/19)
「イラク軍解体:40万人の武装した男達に何をして生計を立てろと言うのだろ
 う?」
「家宅捜査や検問所で拘束されることが頻繁に起こった。米軍との仲立ちをして
 くれるのは国際赤十字だけだった。
 <戦後復興ビジネス>イラクのある建築会社はディヤーラ橋再建費用の概算見
 積もりを30万ドルと提出した。米国企業は5千万ドルで受注した。
「老獪なイラク人は、このようなうさんくさい復興プロジェクトは、自分たちの
 国をアメリカの国債に並ぶほど巨額の国家債務の罠に陥れることになるのを
 知っている」(8/28)
「CPAは、放送で取り上げてはならない事項リスト(死者の数、連合軍への
 攻撃回数など)を発表した」(9/27)
「占領軍に対する攻撃の多くは、暴行を受けた家族、家宅捜査やデモや検問で
 殺された人たちのための報復行為だ」(9/29)
「ピストル、ライフル銃は1丁ずつ携帯が許されていた。決められた以上のライ
 フルや銃が見つかったとする。すると、それは即刻”テロ行為”と見なされ、
 一家はその夜のニュースで、我が家がテロリストの巣であったことを知ること
 になる」(10/9)
「歴史的に、椰子はイラクとイラクの人々にとって、質実で禁欲的な精神の美し
 さの象徴だった。米軍を攻撃するゲリラについて情報を提供しない農民たちに
 対する集団的懲罰という新政策の一環」として椰子をブルドーザーで根こそぎ
 にした。(10/13)


 部族については、
「近代社会のイラクの部族長たちの多くは大学卒だ。海外に暮らした経験のある
 部族長も多く、海外の華やかな首都に資産を持っている」
「イラクでは孤児院にいる孤児は少ない。部族が親のない子の面倒を見て、多く
 の場合、部族長自身の家族が世話をするからだ」
「地方の都市の多くは、事実上、大部族の部族長たちによって統治されている
 からバグダッドや南部イラクよりずっと安全である」(9/29)


 筆者の親戚が誘拐に遭い、身代金を支払い、解放された事件は実にリアルに
描かれていた。
「戦争前に銀行から現金を引き出し、それで金を買った。イラクの女性は、金を
『飾りと蓄え』と呼んでいる。経済的に困った時には数個売れば、一家が苦境を
 乗り切ることができる」

 クルド自治区以外のクルド人はむしろ自治拡大に賛成でもないようだ。
自分達自治区以外のクルド人に対する反感が増えるからだ。

 筆者は、シスターニ師をイラン人と呼んでいる。筆者は亡命し、長年イラクを
離れていた人々を基本的に信じないという線引きをするようだ。フセイン政権で
のシーア派弾圧下で多くのシーア派指導者が長年イランに亡命していた。それと
もシスターニ師は民族的にもペルシャ語を話すペルシャ民族ということだろうか

 イラクのシーア派指導者とはいえ、長年イランに亡命していた人に対しては、
『イラン人』という言い方をする者もいる。かつてフセインは意図的にそう呼ん
でいたのだが、それとも違うニュアンスが地元民にはあるようだ。

 日本に対しては、
「イラク人の間には日本に対する敵意がある。日本は軍隊を送り込んできたの
 だから。」(4/11)

バグダッド・バーニング