去年セルビア・モンテネグロを訪れた外国からの観光客は48万人余り、
今年はそれを上回る見通しです。
 セルビア・モンテネグロは五つの世界遺産を抱え、外国人観光客の増加による
経済効果に大きな期待を寄せています。
 観光の振興によって旧ユーゴの経済発展と安定を促そうという会議が開かれ
ました。地元政府と日本政府の共催です。
 クロアチアやボスニアヘルツェゴビナなど内戦で激しく争いあった旧ユーゴ
諸国の代表も揃って参加しました。
 外国からの観光客を誘致する上で最大の障害になるのは、この地域に定着して
しまった戦争のイメージです。
 今後は旧ユーゴ諸国が協力して平和と観光の地という新しいイメージをPRして
いくことになりました。
 
「私達は観光で国境を越えた協力が必要なことをよく知っています。同じ目的を
持つ国々にとって国境は関係ありません」
(モンテネグロ観光相)

「観光によって地元の経済も発展し、同時に相互理解も促進される。協力関係が
深まり、それがこの地域の安定につながる」
(セルビア・モンテネグロ駐在日本大使)

 観光の振興は単に経済的な効果をもたらすだけでなく、海外からの観光客の
姿を国内で目にすることによって、セルビア・モンテネグロの人達は漸く孤立
から解放されて国際社会に復帰したと実感。

 経済全体をどう再建するかが最大の課題。
NATOによる空爆から五年経った今も、空爆の傷跡が残る。
経済制裁が解除されて四年。
最大の課題は国営企業の民営化。欧米からの投資が始まる。
平均賃金は、ハンガリーなど既にEUに加盟した旧社会主義国の三分の一程度。
かつて自動車を輸出していた高い技術力もあります。
外国からの投資を呼ぶ上で大きなセールスポイント。
「セルビアはEU市場に製品を出荷するのには抜群の立地です。投資家にはとても
魅力的な場所です」(USスチール広報顧問)

 民営化はまだ始まったばかりで、ほとんどの国営企業は厳しい経営状況にあり
ます。
 ヨーロッパ最大規模の銅山があるセルビア東部の町ボール。関連の国営企業が
町の経済を支えてきました。しかし、今は経営が行き詰って、賃金の支払いも
滞りがちで、労働者達は事実上の失業状態にあります。フリーマーケットで
生活の足しにしています。
 国全体の失業率は30%に達しています。
ベオグラードの政府雇用センターには、月に延べ15000人が訪れますが、仕事を
紹介して貰えるのは、三人に一人程度です。それも大抵がアルバイトです。
 雇い主は、三ヶ月以内に解雇することが多いという。労働者の社会保障を義務
付けられる前に雇用を打ち切ってしまうからです。

 2000年ミロシェビッチ政権の崩壊後、現政権の民主改革派が政権を取って四年、
期待が高かった分、失望もまた大きい。不満が昂じ始めている。
今年の大統領選挙で、セルビア急進党候補が現政権候補に肉薄。
高い失業率など現状への国民の強い不満の受け皿となったとみられている。
ハーグ国際法廷:何故セルビアだけがという想いが国民に根強くあるのも事実。

 多くの国民は、国際社会で二度と孤立したくない、何よりも経済的に安定した
生活を送りたいという想いを強く持っています。しかし、今の経済の停滞が続け
ば、民族主義的な勢力が再び台頭しかねないという現状。

「セルビア・モンテネグロ復興の光と影」:NHK・BS