・榊原英資氏(慶応大学教授)
・朱建栄氏(東洋学園大学教授)
・前田匡史氏(国際協力銀行資源担当審議役)

・アジアでは市場・企業主導の事実上の経済統合が進んでいる
・アジアで巨大な中産階級が出現している
 (中国で二億から二億五千万人、インドで一億から一億五千万人)
(榊原英資氏)

「国際金融(世界銀行、IMF)、貿易(WTO)というシステムは
依然米がヘゲモニーを握っている」(前田匡史氏)

「中印の未来は政治指導者が決めるのではなくて、
社会構造の変化と経済の発展という二つの要素が
中産階級が人口の半分以上を占めるようになると、
安定した民主化が実現できる。
中国の民主化は中産階級の拡大に伴って
移行していかざるを得ない」
(朱建栄氏)

インドIT急成長の秘密は情報通信技術の飛躍的な発展で
可能になったビジネスモデルにあります。
米印の時差は昼夜反対
米で日中制作したソフトは衛星回線でインドに送られる。
24時間体制で制作を続けることで
納期を大幅に早めることができる。
「私達はグローバル化によってソフトウェアー開発の
アウトソーシング:外部発注が拡大すると確信していました。
衛星や光ファイバーなど情報通信技術の進歩が追い風となりました。
この流れをうまく捉えれば必ず成功すると思ったのです」
(Infosys:ナンダン・ニレカニ社長)
航空宇宙産業はコストの掛かる研究開発を
インドに移管する動きが加速

「両翼で飛ぶ」
印度が得意とするソフトウェアー開発と
成長著しい中国のハードウェアーの生産
win-win関係

中印の<共通利益>が<領土問題・警戒心>よりも、
明らかに大きくなった。

3000万人の華僑と1500万人の印僑が成長を支える

「中国のGDPに占める輸出入のパーセンテージは
七割、八割を占めている。
対外依存度がいかに高いか。
つまり、世界と仲良くしなければ
中国経済に未来はない。
エネルギー浪費のアメリカモデルではなく、
省エネの日本モデルが中国の道」
(朱建栄氏)

中国の石油戦略
バラバラだった諸企業を三つに統合
・中国石油天然ガス
・中国海洋石油
・中国石油化工
中国版石油メジャーを目指す

「1980年代、中国は武器輸出
・イランにシルクワーム(対艦ミサイル)売却:米駆逐艦に発射される
・サウジにSS2(中距離弾道ミサイル)売却
 Rogue States イラン、スーダンに石油を求め、
更には資源を通じて、武器輸出、大量破壊兵器技術も絡んでいる」
(前田匡史氏)

「だったら、もっと安全な所で買わせてくれよ。
買わせてくれないから、グレーゾーンに行かざるを得ない」
(朱建栄氏)

「石油市場を通じて買うのではなく、直接権益を取りにいく。
市場を通さずに長期契約で引き取るというモデル。
市場参加者としての、プレイヤーとしての自覚、認識が
IEAメンバー諸国とは随分ギャップがある。
ここが一番問題だ」
(前田匡史氏)

「日本が市場から買えるのはうらやましい。
国際経済秩序の既得権益者だから。
中国はできるか。
ある日、誰かがNOと言ったらどうすればいいのか。
危機は日本よりはるかに深刻。
中国の石油備蓄は僅か二週間分。
自分でどこか確保して、いざという時に備えるという
戦略を採るのですが、問題はどこから調達するか。
グレーゾーンに進出せざるを得ない」
(朱建栄氏)

「OECD諸国が築いてきた石油価格の安定化の為の
仕組みに対してフリー・ライダー、タダ乗りしている」
(前田匡史氏)

「確かにフリー・ライダーだ、今までつくった秩序を
壊しているという部分はある。
しかし、先進国のエゴというのもある。
最大の消費国は米であり、中国ほどではないが、
エネルギー効率が先進国で最悪なのは米。
中印が出てくれば、どうしても既存の国際秩序は崩れる」
(榊原英資氏)

「中国にも反省はある。
ここニ、三年に急いでいっぺんに世界四方八方に手を出した。
また、米に対して裏切られた。
米を信じて、WTOに入った。
世界の国の主権の上にルールがある。
いざ米の利益に関わるとそれは違う。
ユノカルの件、対米警戒論もある」
(朱建栄氏)


2005年7月米印首脳会談
共同声明:核エネルギー供与を約束
(NPT非加盟国への核燃料供与を制限)
1998年インド核実験
米は経済制裁を発動

急激な経済成長でエネルギー不足が深刻なインドは
原子力発電への移行を急いでいる。
その為には米に接近するしか道はない

イラン-インドの天然ガスパイプライン計画
2005年9月IAEAでインドは決議案賛成側に回る

インドへの米軍需産業の進出
従来はロシア製兵器
米印首脳会談後、インドへの武器輸出規制が緩和
ロッキード・マーチン社
F16売却予定

「中国の台頭が本当に平和的なものなのか疑いを捨てきれない。
中国はパキスタンに対しミサイルや核兵器などの支援をしています。
中国の本当の意図は何なのか懸念を抱いています。
現段階では米と緊密な関係を持った方がインドの国益になります」
(インド防衛問題研究所ウダイ・バスカル所長)

非同盟中立国インドの米への接近
米印接近は中国への牽制

「現時点で米印接近は中国にとっても悪くはない」
(朱建栄氏)

2005年12月東アジアサミット
「私はクアラルンプールに行っていたが、
非常に印象的だったのは、
ASEANと日本の仲が非常におかしくなっている。
日本がアジアで孤立している。
私は大変な危機感を持った。
中印のしたたかな外交戦略
中印の台頭により、従来の秩序も変わる。
日本と東南アジアは米の権益圏であったが、
米も新しい戦略を持って、アジア外交を進めようとしている」
(榊原英資氏)

Mapping the Global Future:15年後の世界
「経済の面では中国に主役の座を奪われ、
中国との関係悪化を避ける為、在韓、在日米軍を縮小」
「国と国の力関係が変化しています。
それに合わせて地域的な外交や国際組織の見直しが必要」
(米国家情報委員会NICデビッド・ゴードン副委員長)

北東アジア地域フォーラム構想
NERF:Northeast Asia Regional Forum
(ユーラシア・グループ:イアン・ブレマー代表)
多国間協議(中日韓米露)
民間企業やエネルギーの専門家を交えて
・省エネ技術
・石油ガス
多国間協議が中国に大国としての責任ある振る舞いを求める機会になる
「中国には力があります。
経済力があります。
軍備を増強しています。
それは事実です。
問題なのは、中国がそうした力を国際的な安定を
もたらす方向にもっていけるかどうかです」
「米日中はエネルギー問題について利害を共有している筈なのです」
「中国の為でもあります。
中国が損をするような構想を巧妙に押しつけたりはしません」
2005年秋ワシントンでNERF実現の可能性を探る非公式会議
中国代表は出席せず、見解文書を提出
「理念には賛同、参加国にモンゴルやEU、北朝鮮も加えるべき」

「NERF構想はエネルギー問題に限定して始めようというもの」
「米国家安全保障会議内では、中国より先に
インドと始めるべきだという意見の方が有力。
米日印の三か国で先に始めて、その上で、中国を後で、
この枠組みに引き入れるという順番の方がよいのではないか。
アーミテージ氏もその順番の方がよいのではという意見。
中国には大上段にではなく、非公式にそろりそろりと
やるのがよいというのが、アーミテージ氏の助言。
日米が言うより、インドに働きかけてもらった方がよい。
中国が余計な警戒感を抱かずに済むのではないか」
(前田匡史氏)

「中国は脅威だといって、
本当にそうさせてしまうことはできます。
中国が世界で善意の国として責任のある行動を
とるようにしたいと思っているのです。
中国を国際的な枠組みの中に
組み込んでいくのが最善の方法なのです」
(アーミテージ氏)

「明らかにパラダイム・シフトがある中で、
それに対して日本はどう対応するのかという戦略がない。
日本はアジア外交を持ってない」
(榊原英資氏)

「まさにその通りでありまして、
アジアで孤立した日本というのは米にとっても好ましくない。
あまり使えないパートナーに成り下がって
しまうんじゃないかという危機感を持っています。
日米同盟が基軸であることは間違いない。
だからといって、日米だけのことを考えている訳じゃない。
マルチの場で独立のポジションを持つことが何よりも求められている」
(前田匡史氏)

「日本は中印の外交のしたたかさをある程度見習って
マルチの中でうまく日本の国益を追求していく。
中印日はゼロサムじゃない、ウィンウィンで
一緒にいくという可能性が十分ある」
(朱建栄氏)

「中国の行方は誰にも分かりません。
それだけに懸念はあります。
しかし敵ではありません。
良好な関係を築くべきです」
(アーミテージ氏)

「象は動き始めるのは遅いですが、一度決めたら真っ直ぐ進みます。
象は扱いやすいペットではありません。
大国に従属する地位に甘んじることはありません」
(インド防衛問題研究所ウダイ・バスカル所長)

「巨竜と巨象」:「世界潮流2006」NHKBS(2006.1.1)