「出稼ぎ労働者のことを中国では「打工者」と呼びます。
北京だけで四百万人を超えるとみられています。
収入は仕事に慣れた打工者で月に二千元。
経験の浅い打工者はその三分の一程です。
工事が終わるまで休みはほとんどありません。
打工者が自分達の子供の為に作った小学校。
(藍天実験学校)
小学校の一角に「打工青年芸術団」の事務所があります。
リーダーの孫恒さんは出稼ぎ労働者として四年働いた後、
「打工青年芸術団」を立ち上げました。
「13〜14時間、長い日は18時間働き続け、
 我々の手と汗でビル、橋、道路をつくっても、
 なぜ我々は軽べつされるのか、これが打工者の本音です。
 この本音を歌にし、打工者に聞いて欲しいのです」

2002年に芸術団をつくった時、
楽器は孫さんのギターだけでした。
その後、香港の慈善団体が
年間170万円を寄付してくれることになりました。
この寄付でパソコンや楽器を買い、
孫さんの生活費も得られるようになりました
事務所の隣が練習場です。
団員は現在50人。
全員打工者、地方からの出稼ぎです。
この日は一週間後に開かれるコンサートの練習です。
女性達の多くは、住み込みのお手伝いさんや飲食店の従業員です。
コンサートは平均十日に一回開かれ、
時間の都合のつく人がボランティアで参加します。

孫さんは河南省の農村の生まれです。
大学に進み、小学校の音楽の先生になりました。

コンサートの会場はいつも作業の終わった後の現場です。

打工者のリーダーが出身地で出稼ぎ者を集め、
数十人から数百人のグループを作って、
都会に出て仕事を請け負います。
工事が終われば、次の現場に移って行きます。

<一か月いくらになりますか>
「千元くらい」
<故郷で働くより多いですか>
「北京の方がずっと多いです」
<仕事はたいへんですか>
「稼げるから、つらくても大丈夫です」

打工者達は工事現場に造られた宿舎で共同生活を送ります。
「打工青年芸術団」の歌は打工者の現場の中から生まれてきます。
皆の抱えている悩みや不安、そして希望を聞く中で
孫さんの曲のイメージは作られます。

<一日いくらになるの>
「25〜30元くらいかな」
<契約してないの トラブルになってしまうよ>
<働くのにどうして給料を決めてないの>
<早く決めた方がいいよ。今のままでは給料もわからない>
<何かあったら電話して下さい>

打工者の一番の心配は賃金を約束通り受け取れるかどうかです。
工事が終わった後、まとめて支払われるのですが、
支払いの遅れや未払いも起きています。

今作っている曲のタイトルは「燻」(石炭)

「打工者は石炭と同じです。
 自分が燃えて炎と熱を出し
 他の人に与えている」

打工者の中には結婚して家庭を持ち、
北京にそのまま居続ける人も少なくありません。
同じ地方の出身者が集まって、北京の郊外で暮らしています。
打工者村と呼ばれる、
こうした地域は都市開発からも取り残されたままです。

「今の社会は都会の人が打工者をいじめています。
 特に金持ちが貧乏人をいじめます」

講演は夕方7時15分からです。
楽器を運ぶ車は友人が都合をつけ、運転までしてくれました。
今回のコンサートに出演する団員は13人。
それぞれバスや自転車で現場に集まります。
コンサートを行う工事現場です。
朝六時から働いていた打工者達が仕事を終えて、集まってきます。
五百人程の打工者が集まりました。

「寒い寒いある日
 一人の仲間が石炭を運んでた
 彼は黒い顔で微笑み
 私の心に火をつけた
 白い雪が降ってきた
 黒くなった両腕は彼の誇り
 この腕で食べ物 子供のおもちゃ
 妻の服 家族の幸せを手に入れた
 今私はやっとわかった
 光と熱がどこから生まれるか」

「“打工者”の心を歌う」〜中国 北京〜(NHK地球街角アングル)