「ナイジェリア石油争奪戦」貧困をもたらすのは誰か
(「21世紀の潮流:アフリカゼロ年」)NHK第二回(2005.7.23)

原油輸出量世界第七位のナイジェリア。
生産量一日250万バレル。
対外債務は三兆円とアフリカ最大。
国民の七割は一日一ドル以下で暮らす最貧困層です。

ナイジェリア海岸部の街ポートハーコート。
石油盗掘を監視する専門の武装チームが毎晩パトロールします。
住民の住む街の下にもパイプラインが走っています。
盗掘と捜査、毎晩いたちごっこが続きます。
毎日10万バレル、市場価格で六億円分の石油が盗まれています。
周辺のイジョ族の若者が捕まります。
盗掘する際の爆発事故もしばしば起こります。

シェブロンの採掘所の対岸の川の民イジョ族のクラ村。
川が汚染され、魚介類の収穫は激減。
電気もガスも水も学校もありません。
医者のいる町までは手漕ぎ船で三日掛かります。

人口一億三千万人。アフリカ最大。
言葉も文化も違う250の部族が同居。
ハウサ、ヨルバ、イボの三大部族が政権を担う。
アフリカ第三の大河ニジェール川河口デルタに住むイジョ族は第四の部族。
水路が網の目のように広がるデルタ地帯。
ここで1956年石油が発見。
1960年ナイジェリア独立。
1967年ビアフラ内戦。200万人が亡くなったと言われる。
政府六割、外国企業四割の利益配分で、オイルメジャーに採掘を認める。
年間二兆円の利益が政府に入る。
米英伊のオイルメジャーが20年の採掘権益。
イジョ族の反政府勢力:デルタ人民義勇軍。
リーダーはアサリ・ドクボ:「アフリカのロビンフッド」
メンバーは数百人。迷路のような水路に神出鬼没。
デルタの水路で石油を盗掘し、その金で武器を購入。
ビアフラ内戦の悪夢が全面対決を回避させている。

首都アブジャは、部族間のバランスを考え、
国土の中央に建設された人口都市です。
歴代軍事政権は、汚職国家と烙印されてきました。
国家予算は汚職と債務の返済で消えていました。
オバサンジュ大統領は六年前、民主選挙で選ばれました。
AU第四位の経済力を持つナイジェリア。AU議長国。
国営石油会社。海外企業は、合弁が条件。
国庫に入るオイルマネーは年間二兆円。国の歳入の八割。
90年代後半、ギニア湾で海底油田が次々に発見。
輸出石油の半分以上が米。

チャンスの弧 Arc of Opportunity :カスピ海からギニア湾
米は、ナイジェリアをアフリカの要と位置付けている。
米は石油の安定供給の為にナイジェリアの政治・経済の構造調整、
汚職追放を迫っている。
ナイジェリアにとって、三兆円の債務を軽減してもらう為に緊急の課題。
元世界銀行副総裁オコンジョ・イウェラ女史を
他の閣僚の40倍の給与で財務大臣に採用。
大臣は汚職を一掃し、その富で貧困を撲滅する方針。
全ての国家事業の再点検。
1000億円以上の支出が削減。
国営製油所は30年間補修されず、稼働率は三割。
補修費は政治家が懐に納める。
運転資金の横領で休止した製紙工場。
80億円を使ったのに架空だった水道計画。
ICPC汚職取締委員会のテレビCM。
現職の国会議長と文部大臣も起訴(6000万円の贈収賄容疑)
二億円を私物化した州知事。
150億円を横領した警察長官。
空港や港湾の税関では賄賂を要求するのが当たり前になっていました。
連邦政府職員27万人中、幽霊職員は4万人。
欧米から借りた金は利子と延滞金で二倍以上に膨れ上がり、三兆円。

去年、イジョ族百人がシェブロンなど4か所の石油施設を占拠。
シェブロン製油所は日産三万バレル、一日生産が止まれば二億円近い損失。

米国務省の予算で、三年前から軍事訓練。
米民間軍事会社MPRI社が軍事シミュレーション訓練。
指導するのは米軍の退役軍人。
米寄贈の35台のパソコン画面にはデルタ地帯の複雑な地形が
水路からパイプラインまで再現。
武装勢力と政府軍との動向をシミュレーション演習。
「海上油田で敵と交戦中」
「石油ターミナルを占拠さる」
「第一攻撃部隊へ、石油ターミナル周辺の警戒を続けろ」
米国務省は年間三億円の施設運営費の増額を検討。
米国務省・国防総省合同視察団
デルタ人民義勇軍拠点11か所をヘリで空爆。
海軍もデルタのパトロール強化。
米は警備艇四隻を譲渡。
2004年9月、アサリは「デルタを火の海にする」と最後通牒。
メジャーは一時操業停止。最後通牒の日、原油価格は史上初めて50ドル突破。
アサリは「世界を動かす男」と呼ばれ、一躍デルタの英雄に祭り上げられる。
政府はアサリに話し合いを持ち掛ける。
米の意向で会談は実現したと言われている。
米メジャーもイジョ族に経済援助を約束。
シェブロンはクラ村に毎月十万円の小切手を渡すと提案。
誰が小切手を受け取るかで諍いが始まる。
会社との話し合いは決裂。

オコンジョ財務大臣は、七年前死亡したアバチャ元大統領の隠し預金500億円を
スイス銀行で突き止め、返還させることにしたと発表。
汚職の舞台の一つ、液化天然ガス生産基地。
工費一兆円を越す巨大国家事業。
少なくとも150億円の賄賂を外国企業から受け取ったとみられている。
受注したのはTSKJ社。仏、伊、米(KBR:Kellogg Brown & Root)、日(JGC:日揮)
捜査当局はKBRが所属するハリバートンが贈賄工作を主導したとみている。
経済金融犯罪委員会は、ハリバートンから膨大な資料を押収。
大統領と閣僚クラスに40億円ずつ渡す。
・大西洋のタックスへブンであるポルトガル領マデイラ島のTSKJ本社に150億円
・同住所のトンネル会社へ
・タックスへブン英領ジブラルタルの会社にコンサルタント料として送金
・会社の所有者はロンドン在住のハリーバートンのテスラー顧問弁護士
 ハリバートンは子会社が贈賄を行ったことは認めたが、本社の関与は否定。
 当時の本社会長はチェイニー氏。

デルタ少数民族の権利を訴え、十年前アバチャ政権に処刑された作家
ケン・サロウィア
「富を生む大地で国民は原始時代を暮らす。
 ナイジェリアという仮面の踊りにはもううんざりだ。
 踊り手は我々の資源を奪い、着飾っている。
 仮面の紐を握る白人の目的を見極めなければ、
 仮面をはがすことはできない」

2005年5月ポートハーコートでイジョ族五千人の大規模な抗議デモ。
先月、テロの噂で米領事館が一時閉鎖。原油価格は60ドルを突破。

一日一ドル以下で生活する最貧困層はこの十年で一億三千万人減少。
アフリカでは逆に、最貧困層が二億人から三億人に増加。
その内九千万人はナイジェリアの人々。


 <私の感想>
石油の富があるにもかかわらず、国民が貧困に喘ぐ。
この矛盾は何故生じるのか。
内外の二要因がある。
国内の原因と国外の原因だ。
国内の政治家、官僚の汚職・賄賂。
そして贈賄側である外国資本。

「ナイジェリア石油争奪戦」貧困をもたらすのは誰か
(「21世紀の潮流:アフリカゼロ年」)NHK第二回(2005.7.23)