http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/hardtalk/4875414.stm

<モサドについて最近貴方が書いた本の中に、平和的な手段を第一に選ぶと
言っていらっしゃいますけども、ハマスの精神的指導者で
68歳の目の見えない障害者を殺害したのは、どういう理由なんでしょうか>

「お言葉ですが、その作戦はモサドが行ったものではありません」

<モサドにとって大きな手柄だと言ってますよ>

「モサドの誇りだとは言っていません。
諜報社会の誇りだと言ったのであり、全く違う話だと思います。
また、モサドのしたことや、しなかったことに
根拠のない自慢をするべきではありません」

<ではどういう成果があがったんでしょう>

「戦時中でした。この人物はテロリストの指導者で、軍部だけではなく、
イスラエルの民間人に対する攻撃を計画していました。
罪もない女性や子供達を暗殺しようとしていたグループの首謀者だったんです。
非戦闘員を標的としていました」

<私が伺っているのは、暴力を暴力によって潰すことによっては、
暴力の根幹を絶つことにならないということなんです。
ヤシン師を殺した日に一体何人の自爆犯が生まれたと思いますか>

「とても難しい問題だと思います。
最終的に数字で分析するのは難しい問題です。
自爆犯をイスラエルに送り込む、この人物を抹殺することで、
どれだけの命が救えたかを単純に計算できないかもしれません。
もしイスラエルがこうした暗殺作戦を実行しなかったら、
人命が救えたと良心の呵責なしに言える人物はいないと思います。
その反対が本当のことだと思います」

<非常に難しいバランスかもしれません。
イスラエルは何とか情況を良くしようとして
力ずくでそれをやっている訳なんですけれども、その結果として、
ハマスにパレスチナの政権を渡してしまったことになりますね。
アラファト議長を辱めたり、ファタハを罰したことで、
そういう結果が生まれたんですが>

「そうは思えません。パレスチナ陣営で起こっていることは、
パレスチナ自身が引き起こしたことだと思います。
イスラエルがその責任をとるべきではありません。
パレスチナの内部の問題だからです。
パレスチナには独自の社会と人民があります。
独自の政府とルールがあり、自分の領土を持っています。
自治政府を持っているのに、その運営能力がないんだと思います。
政治の舵取りをするような能力がパレスチナの方には
まだない状態だと思います。残念なことです」

<アラファトが無能力であったのは、
イスラエルにとっては好都合だったんではないんでしょうか。
彼と手をうつことは考えなかったんですか>

「そんなことはありません。交渉しようとしてきました。
オスロでも交渉しましたし、その後もしてきています。
しかし、交渉不可能な人物なんです。
まず虚言癖があります。また、言い逃ればかりしています。
一緒に仕事はできない人物です」

<68歳の目の見えない人を殉教者に祭り上げる結果になってしまいました。
ハマスの人気を高め、今度の選挙の勝ちにつながったという風に思いませんか>

「たった一つの作戦をそんなに重要視するべきではないと思います」

<たくさんありましたよ。あとどれだけ殺すつもりなんですか>

「そうではなくて、ある特定の作戦にばかり目を向けてはいけないと
言っているんです。ヤシン師というのは、いわば毒蛇の頭のようなものです。
あの当時の決断はしなければならないとされていたもので、
それが決行されただけのことです。
もし抹殺されていなかったら、どうなったのか分かりません。
また歴史の皮肉とも言えることですが、1997年にヤシン師を
イスラエルの刑務所から釈放する過程に私は関わっていました」

<それを後悔していますか>

「後悔はしていません」

<殺したことも後悔しないんですか>

「解放も、その後に起こったことも、私は後悔していません。
釈放された時もイスラエルのイニシアティブでした。
私はそれに関与していた訳です。
ヤシン師はガザに戻り、その後、違う道を歩むこともできたのに、
そうはしませんでした」

<暗殺というのは、政治の一つの手段として許されるものなんでしょうか。
それを伺いたいんですが。新聞とのインタビューで貴方はこう仰っています。
『ハマスが恒久停戦に合意しないならば、別の指導者を作る。
ヤシン師の時のように』と言っています。
ハマス政府のトップを殺すということでしょうか>

「それは正確な引用ではありませんね。
イスラエルがパレスチナ陣営で指導部を創設できるとは、私は信じていません」

<不正確、つまり、そうは言わなかったんですか>

「そうは言ってません。
正確な引用ではありませんし、私はそうは言っていません。
イスラエルは人殺しではありません。
イスラエルがしていることは、罪もない女性や子供達、
罪もない傍観者や罪もないような人々を暗殺しようとする
テロリストなどの直接の脅威を抹殺することです。
非戦闘員を標的にする人達を抹殺することです」

<その尺度というのは、今のハマス政権の全ての人に
当てはまるんじゃないんですか、クリーンではないし>

「誰が潔癖で、誰がそうでないかという問題は、
私は判断の基準にするべきだと考えています。
しかし仰る通り、誰が潔白で誰が潔白でないかという問題は、
見極めるが非常に難しいことですし、また論証はできないと思います」

<自爆攻撃が今後も続いた場合ですが、ハマス政権の幹部に
対し同じような攻撃を続けるのを正当化されると思っていますか>

「テロリストや自爆攻撃を抹殺する為には、正当な行為だと思います」

<つまりイエスなんですね>

「そうじゃありません。
イスラエルに対する罪もない国民に対する攻撃が生じた場合、
あらゆる手段を講じて、この攻撃を防ぐことが正当だと思うと
言っているのです」

<抹殺も含まれる>

「これらの人達が行った行為を」

<イスラエルはハマスと交渉できるんでしょうか、
それともハマスは暴力団みたいな奴らだと思っているんですか>

「ハマスはよく組織された団体だと思います。暴力団だとは思っていません。
この19年間、大変顕著な成功と成果を収めてきた団体です。
この19年間で政権を掌握するに至りました。
ムスリム同胞団の一つで、同胞団系の組織の中では、
アラブ社会ではじめて政権を握りました」

<そのハマスをもっと穏やかで、まともで創造的な方向に
仕向けることができると思っていますか>

「その答えは分かりません。誰にも分からないと思います。
ハマスにも分かってるかどうか、疑わしいものです。
数週間前、選挙で地滑り的勝利となりました。
今後これまでのような暴力を継続するのか、
違う方針を採るのかを決断する時だと思います。
今は政権を掌握している訳ですからね」

<ハマスというのは、今誰とも話しをしてもらえない立場にありますね。
オルメルト氏が次のイスラエルの首相になった場合ですが、
例えば防護壁とか、国境線とかをパレスチナに課すとして、
ハマスはそのまま受け入れてくれると思っていますか>

「オルメルト氏はそうは言っていません。違うことを言っています。
私の知る限りですけれども、オルメルト氏は、
よし、ハマスが政権に就いた。ハマスは今後の方向を決めなくてはならない。
交渉する気があるのか、あるなら交渉相手らしく振る舞うこと、
交渉相手の正当性を尊重することと言っています」

<さもないと入植をそのまま続けるんですか>

「さもないと、もし向こうがこちらの正当性を認めないのなら、
こちらも認める義理はないということです」

<入植地を維持するということですか>

「もし向こうがこちらの正当性を認めなければ、
こちらも向こうの正当性を認めないことになります。
そうなれば、イスラエル国民と領土の治安を適切に確保しなくてはなりません」

<防護壁というのは、イスラエルの治安の為なんでしょうか、
それとも土地接収の隠れ蓑になっているんですか、両方でしょうか>

「壁、いえ、フェンスが設置された理由ですね」

<大きな壁ですよ>

「いや、フェンスです。
壁と呼ぶ人もいますが、私達はフェンスと言っています」

<一部は壁で、一部は柵ということなんでしょうがね。
東ドイツはベルリンの壁をアンチ・ファシスト防護壁と呼んでいたんですが>

「今ベルリンの壁を引き合いに出されましたが、
イスラエルのものとは全く比較できないものだと思います。
ベルリンの壁の目的はドイツ国内の二つの国家を
政治的に引き離す為のものでした。
イスラエルの場合、分離壁は自爆犯が入り込むのを防ぐ為です」

<貴方も壁と仰いましたね、今>

「誰でも口が滑ります。これは重要な点ではないと思います」

<まず土地接収の為だとすると、国連は今こういう報告を出しています。
パレスチナの領土の10%は
今イスラエル側に入ってしまっていると言っているんです。
その為にカルキリアという所では、地元の人は井戸へも行けなくなっています。
そして50万人がこの壁の暗い陰で生活することを余儀なくされていますよ。
エルサレムに行けなくなって、反対側に広がっている例もあります。
これは今後十年、百年に禍根を残すことになりませんか>

「だから他の選択肢があるんですよ。
それはもっと身のある交渉、対話です」

<マアレアドミムの壁を崩すことは、まずないでしょう>

「この選択肢こそ解決の手段なんです。
交渉、対話をする為には、お互いを信用できる立場にいることが不可欠なんです
そして信用する為には、お互いに敬意を表さなければなりません」

<相手にも何かを与えないと駄目でしょう>

「お互いが痛みを伴う決断を下し、痛みを伴う情報を行い、
お互いに理想を諦めなければならないでしょう。
理想というのは、イスラエルは大イスラエル構想を諦める。
しかしパレスチナはイスラエル破壊を諦めなければならないということです」

<彼らの夢はイスラエルを破壊するということですね。
それを諦めろということなんですか。
ハマスは空港も飛行機も持っていません。
だからイスラエル破壊という夢は空想に過ぎませんよ。
ですから諦め易いとも言えますね。
その替わりに何をもらうんですか>

「簡単に諦められる夢ではないですよ。
ハマスの経営する学校に行ってみて下さい。
そこで子供達が教わる地理の授業で使う地図には
イスラエルは存在していないんです。
子供が初めて教わるのがイスラエルは存在しないという地理の授業なんです」

<情報局あるいは軍の幹部というのは
相手の頭の構造、中身を知ろうとするものなんですけれども、
貴方は自爆犯の頭の中を考えたことがありましたか、またどう思いましたか>

「はい。狂信的な宗教心を見い出しました。
そして自爆してたくさんの人を道連れにすれば、
天国への道が開かれると信じて、
それしか考えないということも分かりました。
ところで、自爆攻撃を呼び掛ける指導者は
自分の子供達には決して自爆などさせませんよ」

<積もり積もった不満、怒り、失望、そういったものは見なかったんですか>

「確かに焦燥感があります。
そしてできるだけだくさんの人を殺すことこそ
自分の理想を現実とする手段だと信じて疑わない
ということも分かっています。
その手段は殺人であり、破壊的な考えでしかないんです」

<貴方はアラファトを個人としても高くみていなかったということが、
書いた本から分かるんですけれども、毛嫌いしていたんですか>

「いいえ、嫌悪の気持など持っていませんでした。
けれど、自分の民族の解放運動の長という立場にある人が
あのような振る舞いをすることに、私は一種の絶望感を持っていました」

<病的な嘘つき、約束は破るし、アラブの他の指導者達も
アラファトを毛嫌いしていたと>

「そうです。アラブ諸国の指導者は誰一人として
アラファト氏を良く言う者はありませんでしたね」

<どんな風に言ってましたか、名前は>

「名前を出したくはありません。
特にこのインタビューで誰かに恥をかかせるつもりなどないからです。
でもアラブ諸国の指導者は彼のことを
誰も良く言う人はいなかったというのが事実なんです」

<ムバラク大統領はどうでした>

「いいえ、これらの指導者達はアラファト氏により
顔を潰されたと感じていたんでしょう。
今お話に出たムバラク氏ですが、1994年イスラエルとパレスチナの
歴史的合意文書の調印の時、世界中がテレビ生中継を見守る中を
アラファト氏は署名を拒否して、折角お膳立てしてくれたムバラク氏に
大恥をかかせました。ムバラク氏は大変な怒りようでしたよ。
アラファト氏は支持してくれた人の顔に平気で泥を塗る人だったんです」

<最悪のミスはアメリカの大統領に恥をかかせたことではないんでしょうか。
普通はこういうことはしませんよね。
キャンプデービッド会談を反故にしてしまったんですが、
何故彼はこういうことをするんでしょう>

「理由ですか、それはパレスチナ人に聞くべきですが、
もし私の評価を求めるということでしたら、
それはアラファト氏はイスラエルとの合意を達成する意思は
毛頭なかったということです」

<ロードマップ、貴方は反対でしたが、あれはもう死んだ文書でしょうか>

「現在の所はロードマップは履行できないでしょうね。
というのはロードマップはイスラエルとパレスチナの
恒久的な解決を求めるものだからです」

<国連、EU、米露の四強があのロードマップを後押ししていました。
それが不成功だった今、世界はそれに替わるものを押しつける
権利はないんでしょうか。世界に影響する問題な訳ですから>

「そこでの問題は解決手段を強制することはできないということです。
二つの国家の間の合意を第三者が強制などすれば、
それは長続きする解決とはなり得ないからなんです」

<しかしオルメルト氏が解決を押しつけても、
それはうまくいかないんではありませんか>

「イスラエルが強制した解決手段だけでは恒久的な解決とはならないでしょう。
あくまで一時的なもので、時間をおって修正していくものでしかあり得ません。
その間にパレスチナが交渉に参加しようとする
意思のある指導者を立てなければならないんです」

<国境は交渉できるんでしょうか。壁が既にもうできていますし>

「防護壁はいつだって取り払うことはできるんです」

<米政界に対する影響力、存在プレゼンスについて、
貴方は本の中でこう言ってますね。
アメリカは現在、イラクに軍を駐留させていますけれども、
アメリカはこの地域に長いこと留まる可能性が高いという風に言ってますね。
米部隊がサウジ油田をパトロールしたり、
パレスチナの防護壁をパトロールしたりすることになるんでしょうか>

「そんなことになって欲しくないですね」

<正気の沙汰ではありませんね。
一体誰が考えたんでしょうか。ネオコンの仕業ですか>

「いいえ、でもこういうシナリオは可能なんです。
もし中東で今イラクで見られているような情況が他の諸国にも拡大し、
飛び火して更に悪化してきたら、アメリカだけではなく、
西側諸国は世界経済を保護する為に、また国際社会を保護し、
自由を擁護する為に乗り出さなくてはならなくなるでしょう。
中東がそんなことになったら、介入しない訳にはいかなくなる筈なんです」

<貴方は本の中で、ブッシュ・シニア大統領がバグダッドに攻め入らなかった
理由は、サウジの支配者からこう言われたから、つまり、アメリカがアラブの
首都を占領したら、中東で火の手が上がってしまうと言われたからだそうです
けれども、貴方は本の中でアメリカ・西洋軍がアラビア半島をパトロールする
というようなことを言ってますけれども>

「いいえ、私が言っているのは、もし現在の情況が非常に悪化してしまったら、
現在の世界の価値観という観点から、これはつまり過激なイスラム原理主義を
阻止するという考え、あるいは大量破壊兵器の生産を阻止するという考え、
そして中東の原油は世界のエネルギー源であるという考えに基いて、
介入しなければならなくなるだろうと、こういう意味で私は申しました」

<地球文明の末期のように聞こえるんですけれども。
イスラム過激派のやることを見通すことはできなかったことを認めていますね。
9.11事件は予見できなかったということなんでしょうけれども、
今、情報機関というのは、我々をどのように守ってくれているんでしょう>

「一般的に言ってですか」

<つまり、9.11事件を予見できない情報機関だから心配しているんです>

「情報機関の機能が失敗した点はもちろんありました。
けれど現在のように問題は何でも情報機関の失敗の所為にされるのは
間違っていると思います。
例えば9.11という話しが今出ましたけれど、9.11事件について言えば、
その二か月前にCIAの長が大統領にイスラム原理主義武装組織が
大きな脅威であり、早急に何らかの手をうたなければならないと進言しています
しかしだからといって、うった手が必ずしも有効であるとは限らず、
有効でなかった為に情報機関に落ち度があったと帰結することは間違っていると
私は申し上げたいんです」

<2003年にイランの危険を貴方は予見していますけれども、
それが今一番懸念される悪夢でしょうか>

「悪夢の一つであり、唯一の悪夢ではありません。イランは悪夢の一つですが、
これは何らかの解決方法が見い出せると私は信じています。
こういう悪夢が何を意味するか私はよく分かっているんです。
だからそれが起きる前に手をうつ必要はよく分かっているんです」

<武力による解決ですか>

「武力は最後の手段です」

<武力じゃないんですか>

「その最後の手段を使わずに済むようにすべきです。
私が最も恐れているのは、その最後の手段がある日突然に現実となり、
皆が何故これを事前に知ることができなかったのかと言い出すことなんです。
そんなことがあってはなりません」

<未知のものが一番恐いということですね>

EFRAIM HALEVY:Former Head of Mosad :HARDtalk(BBC)(2006.4)