http://www.pbs.org/newshour/bb/middle_east/jan-june06/israel_2-02.html

パレスチナ評議会選挙でハマスが地滑り的勝利をしたとの正式な開票結果が
伝えられてから24時間経たない内に、ハマスによる自爆テロの犠牲者の遺族らが
エルサレム中心部にあるカフェに集まりました。
『我々は自分達の手でイスラエルの中心に
ハマスの国をつくろうとしているようなものです』
このカフェも2002年に自爆テロの被害を受けました。
集まった遺族はテロ組織ハマスが自分達の隣にいる
パレスチナ政府を乗っ取るのではないかと恐れています。

(BATTIA BEHAR, Victim's Mother)
『空が頭の上に落ちてきたような感じです』
(Isaiah and Battia Behar)
93年のオスロ合意の調印から一か月も経たない内に起きた
自爆テロで23歳の息子Eranを失いました。
(Isaiah Behar)
『世界はパレスチナ人の本当の顔とその目的を理解しなくてはいけません。
 彼らの目的は我々ユダヤ人の存在を消し去ることなんです』

数ブロック先にある別のカフェでもハマス大勝利のニュースでもちきりでしたが
そこにいた人々は違う結論に達しつつありました。
The coffee shop's owner, Eli Cohen氏は常連客と議論を重ねた結果、
パレスチナ人は無能で汚職まみれの政府を追放する権利を
行使しただけにすぎないといいます。
『ハマスの方がうまくやってくれると思ったんでしょう。
 私はそうみています。彼らはテロを支持してハマスに票を入れたのではなく、
 雇用や食糧や子供達の為にハマスに投票したんですよ』

Rabbi Arik Ascherman氏はイスラエルによる占領に抵抗する権利を擁護する為、
パレスチナ人と共に活動しています。
『これまでに起きたことについては、我々にも一部責任があると思います。
 ハマスが自分達はテロリストではなく、政治家、外交官にならなくては
 ならないという決意を持ってくれればと期待しています』

イスラエルではあらゆる経歴の、あらゆる政治的立場の人達が
パレスチナ評議会選挙の結果についてこの一週間議論してきました。
それがイスラエルの社会、治安問題、中東和平の見通しについて
どんな意味を持つかについてじっくりと考えました。
そうした議論は歴史あるこのYehuda Mehane市場でも聞くことができます。
この市場にはスペイン、ポルトガル、北アフリカにルーツを持ち、
保守的な傾向を持つユダヤ系の人達が多く集まっています。

建設作業員のEliezer Reiseman氏は母親がイエメン人です。
ハマスの勝利によってイスラエルの姿勢は
劇的に変化するかもしれないとみています。
『間違いなく極右化し、政治対話はストップするでしょう。
 何故ならイスラエル政府は殺し屋なんかとは話す気がないからです』

商店主のUziella Hzi爺さんは、自家製の漢方薬を売っており、
彼もイエメン系ユダヤ人です。
この市場では有名人で伝統的な療法士です。
今の政治情勢について診断を下してもらった所、
イスラエルはパレスチナに対しては、
成り行きを見守る姿勢をとるだろうといいます。
『イスラエルも少しは成長しました。
 左すぎず、右すぎず、中道路線で行きたいと思っているんです』

オルメルト首相代行はハマスの勝利以降、
極めて微妙なバランスを保ってきました。
まず、暴力とイスラエル殲滅の考え方を放棄しないハマスが率いる
パレスチナ自治政府とは交渉は行わないと強い態度を示しました。
その一方で、西側諸国に対しては、
パレスチナ自治政府の崩壊の口火を切ることになるとして、
パレスチナへの経済援助を即刻全面打ち切ることのないよう
目立たぬかたちで説得しています。
オルメルト氏は西岸にある違法な入植地から
ユダヤ人入植地を撤退させる計画も示しました。
側近によると、オルメルト氏は自分はシャロン氏と同じ位
強硬だということを有権者に示したかったといいます。

シャロン氏の中心となる考え方は、イスラエルの安全は、
パレスチナ人との戦争や交渉を永遠に続けることで確約されるのではなく、
自分達がパレスチナ人から離れることによって確約されるという考え方です。
ガザ地区からの一方的な撤退、分離壁は
イスラエルの人々から幅広い支持を集めました。

しかしイスラエルの人達が現在直面しているのは、
ハマスの圧勝という事態を受け、
こうした新たな中道路線を維持できるのかということです。

Avi Dichter氏は中道路線は維持できると信じています。
彼は国内諜報機関の元長官で、シャロン氏を説得して、
分離壁の建設を実現させた人物です。
パレスチナ人はこの壁によって、家族は引き裂かれ、土地も分断され、
労働者は検問所で長時間待たされ、屈辱を与えられるとし、
これはパレスチナ人全体に対する処罰だと反発しています。
Dichter氏は二年前に分離壁が完成してから、
北部地域では自爆テロが90%も減ったといいます。
ハマスのテロ首謀者に的を絞り、暗殺を行うという手法も
同じ位効果を表していると言っています。
ハマスは一年以上停戦を守っていますが、Dichter氏は
今回新しく選ばれたハマスの評議会議員もテロを計画したり、
承認していることが分かれば、暗殺の対象になると警告しています。
『治安を守る立場としてかつて私はテロ対策の責任がありました。
 でも今は政治家としてテロリストに対してはテロ対策が必要ですが、
 パレスチナの指導者とパレスチナの人々とは
 対話が必要だということを理解しているんです』

<ハマスの圧勝によってイスラエルは更に右寄りになると思いますか>
「そうは思いません。
 まず第一に、ハマス圧勝後の世論調査でもそんな傾向は見られないからです。
 第二に、イスラエルの国民は理性的です。
 イスラエル人の大半は中道路線を好んでいるんです。
 一つや二つの出来事で右へ行ったり、左へ行ったりするようなことは
 ありません」

ネタニヤフ氏は、ガザからの一方的撤退が
ハマスにテロの効果の正当性を与え、勝利を後押ししたといいます。
もしハマスが今後も過激な方針に拘るなら、更なる撤退は中止、
分離壁は更にパレスチナ側へ東の方へ動かすべきだと言います。
「たとえ暫らくの間は静かな口調で話をしていても、
 相手は明らかに理不尽な相手なのです」

<イスラエルの国民は交渉や争いごとは、もううんざりで疲れた、
 分離壁を造って彼ら自身に任せ、我々も自分達を守る境界線を
 作ればいいじゃないかと言っているんじゃないですか>

「他にどんな政策をとろうと、イスラエルはいずれ降参するだろうという
 パレスチナ人、ハマスの予想を覆さなければなりません。
 イスラエルは弱すぎるとか、疲れきったとか仰いますが、
 我々は疲れている暇なんてないんです。弱くてはいけません。
 我々は強くなくてはいけませんし、我々を殲滅しようとする相手に
 進んで立ち向かっていかなくてはいけないんです。
 それは実際どういうことかというと、一方的な撤退を止めることです」

伝統的に保守的なロシア系移民はイスラエルの人口の20%を占め、
選挙では重要な票田です。
彼らはハマス圧勝を特に懸念している様子はないのです。
Leon Smolarさんは、小さなデリの経営者で、
お客は主に故郷の味を求めるロシア系の人達です。
Smolarさんはハマスに対しては、
出方を見守るという実際的なアプローチを好み、
イスラエルは治安に対する脅威については殆ど懸念していないといいます。
『私はかつてはイスラエル軍の兵士で第四次中東戦争も経験していますから
 イスラエル軍はこうした状況をうまく押さえ込める位力があることは
 十分分かっています。ですから特に心配していませんよ』

こうした現実的な考えは左派・リベラルにもみられます。
テルアビブのThe Ramat Aviv Mallは
アッパー・ミドルクラスの人達がよく買い物に訪れる場所です。
そこでドイツ、ポーランド、ロシア系(アシュケナージ)のユダヤ人が
労働党の中心となり、和平運動の中心となっています。
三年前、親の世代はテロを恐れて
子供をここに来させようとしませんでした。
しかし分離壁を造り、一年間にわたる停戦によって
人々はここが安全であると感じています。
モールは賑わっています。
35歳の弁護士で二人の子供を持つAssi Laviさんは、
『これまで極左政党に投票してきましたが、
今はシャロン氏の現実的な中道路線に惹きつけられている』
今度の総選挙でカディマに投票することさえ考えているといいます。
『分離壁を造ったのは良かったと思います。テロが減りましたからね』

かつてリクード党を支持していた人達も
いまではリクードを見捨てる人がいます。
弁護士のAdin Arbagilさんは、
パレスチナとの境界線を自分達で引き、自ら撤退するという
シャロン首相の政策を全面的に支持しています。
『これはパレスチナ人に自分達の国をつくらせ、
 彼らと私達を切り離す為の方法なんです。
 私達はパレスチナの一部である必要なんてありません。
 全てのテロはそのせいで起きています。全く値しないことです』

一方、リベラル派はハマスの大勝利によって
取り残されているというのが一般的な見方です。
それが分かる場所の一つが左派の温床と言われるテルアビブ大学です。
労働党の党首ペレス氏が二日前にこの大学で講演を行いました。
しかし小さな会場にも関わらず、学生で一杯にすることができなかったのです。

労働党のItzhak Herzog議員はシャロン政権で住宅相を務めました。
父親は元大統領。
イスラエルの政治権力の移り変わりを目にして育った彼は
労働党候補として総選挙で再選を目指します。
しかしこの五年間は左派でさえ治安問題については
シャロン氏の中道路線にシフトしてきたといいます。
『和平推進派も中道寄りになってきたんです。
 それは二つのことを目にしたからです。
 一つは容赦のないテロ事件。
 もう一つはより理にかなったガザからの一方的な撤退という動き。
 和平は扉のすぐ向こう側だという甘い幻想が消えたんです』

Herzog氏によると、左派は今でもパレスチナ人とは
話し合いによる最終的な和解に到達できると信じているとし、
ハマスが穏健になることを期待しているといいます。
しかしハマスの圧倒的勝利によって、
それがすぐやって来るという期待は、くじかれたようです。
『全てがうまくいき、我々の相手は実際には敵ではなく、
 国際社会の規範にも適応してくれるだろうという幻想は
 正しいとは言えませんね』

イスラエルの主な政党の全てが分離壁政策に支持を示す中、
イスラエル政府は今年末までの完成を急いでいます。
イスラエルという国、その政治状況は、
壁の向こう側で何が起きるかによって
これからも不安定化する可能性が十分あります」

ISRAEL REACTS TO HAMAS WIN :PBS