http://www.pbs.org/newshour/bb/middle_east/jan-june06/palestine_1-24.html

ハマスのGHAZI HAMAD 氏とのインタビュー
故郷であるガザ地区のラファから立候補
41歳の新聞編集者
25年近くハマスで活動し、五年間をイスラエルの刑務所で過ごしました。

「我々は穏健な組織です。
過激派でも原理主義者でもありません。
広い心の組織であり、民主主義と自由と政治の多元性を信じています。
あらゆる人々を尊重してもいます。
新しい社会をつくれると思っています」

その社会がどんなものになるか、
その片鱗を自治政府があるラマラでみることができました。
23日、ハマスの大行進はラマラの中心部を緑一色に染めました。
紀律とイスラム教のイデオロギーがハマスをここまで成長させたのです。
20年以上ハマスは武装闘争の中でイスラエル人一千人以上を殺害しました。
その為、米とEUによりテロ組織と認定されています。

ハマスはアラファト議長の死以降、自治政府の要請により一年間の停戦を
ほぼ守ってきましたが、選挙に参加するからといって、
武装闘争を進んで捨てるつもりはないとハマド氏は語ります。

<96年の選挙はボイコットしましたね。何故今回は参加するんですか>
「全員がハマスではないからです。
和平プロセスを信じる人が、平和的解決を望む人がいるからです」

<武装闘争を続けながら、政治に参加できるんですか>
「イスラエルがそれをやっているではありませんか。
我々と戦い、殺し、入植地をつくり、我々の家を壊しながら、
和平交渉に出席しています。同じことでしょう。
ハマスも政治的行動と軍事的行動の両方の路線を採るべきです。
占領に対する抵抗を止める訳にはいきません。
我々の領土が占領されているんですから、
抵抗なしに交渉のテーブルに着く訳にはいきません」

明らかにハマスのメッセージの何かが有権者にうけています。
世論調査をみても一年前には考えられなかった
投票の三分の一以上をハマスが獲得する勢いです。

ガザ地区でも若い有権者がハマスの集会に群がります。
その原動力はハマスの効果的な公共奉仕とファタハへの不満です。
28歳の O'LA HASSANE さんは、従来ファタハを支持してきましたが、
今は違います。
『前はファタハを信じてきましたが、今はハマスを支持しています。
夫が刑務所に入れられたからです。
私はハマスに今のガザの目茶目茶な状態を収拾して欲しいんです』

HASSAN NIBALI さんはラマラの市場で雑貨店を開いています。
『もちろんハマスに投票します。
彼らこそが相応しい人々です。
パレスチナに変化をもたらしてくれると信じています。
私達はもう十年以上も変化を待ってきたのに、何も起きませんでした。
新しい人々が変化と改革をもたらしてくれるよう期待します』

その変化と改革こそがハマスのスローガン
西側流のTV広告でそれを流します。
ファタハ率いる自治政府のこの十年間の失敗を強調するのです。

ガザは無秩序同然です。
23日夜のラマラはまさに無政府状態の表れでした。
イスラエル軍がやってきて、催涙ガスと投石の応酬
パレスチナの経済的な絶望も選挙の争点です。
ガザの失業率は65%を超えています。
イスラエルがエレツ検問所を事実上閉鎖した為、
ガザの人々はイスラエルに出稼ぎに行くことができません。
以前は検問所は活気を呈していました。
今では人影がありません。
今はほんの一握りのパレスチナ人しか入国を認めません。
それもパレスチナ人にとっては屈辱的なボディチェックが
四時間も続いた後にようやくです。

パレスチナ自治政府の汚職体質も問題です。
その象徴がガザの海岸沿いに立ち並ぶ自治政府の大物の別荘群。
ファタハの自治政府上層部はパレスチナ人に寄せられた国際援助を着服し、
私腹を肥やしたと批判されています。

ハマスは、ファタハがこの十年間、
経済も治安も和平交渉も、何も向上させられなかった。
今度はハマスにやらせる番だと主張します。
ファタハができなかったことを実際にどうやるつもりかは言いませんが、
それでもハマス人気は止まりません。

「悪者を追い出せ」という現職再選阻止の宣伝文句も効いています。
新顔と古顔の投票用紙の順位を巡る内部抗争が長すぎ、
ハマスが提起した問題点への取り組みに手間取りすぎました。

ファタハの選挙運動を統括している NABIL SHAATH 氏
「ファタハはPLOを40年間支配してきました。
内、11年間は自治政府でもありました。
40年間も統治しているとミスも犯しがちです。
職権を乱用し、私腹を肥やす人も出てきます」

選挙の終盤戦、ファタハは故アラファト議長など
パレスチナの殉教者と呼ばれる人々のイメージに頼ることにしました。
TVで抵抗運動のルーツを強調し、豊かな経験ぶりをアピールし、
スポット広告を流し、この十年間を無駄にしたという批判に反論を試みました。

NABIL SHAATH 氏
「ハマスには対外援助をどう獲得するか
民間投資をどう獲得するか、何の計画もありません。
もしハマスが政権を取ったなら、
それは人々の民主的な選択ですから我々も受け入れます。
でも人々には厳しい事態が待っていると思います」

確かにファタハの支持者には厳しいかもしれません。
多くは仕事をファタハに頼っています。
アルアクサ殉教者旅団のメンバーが自治政府から給料を貰って、
ガザの入植地の跡地の警備を行っています。

ファタハの中でも影響力のある若者達は
ハマスを自治政府に含めるよう古い考えの人々に呼びかけています。
そうすればイスラエルとの和平交渉の前進に役立つといいます。
「ハマスは自分達は現実的なイデオロギーグループであり、
政治に参加したいという信号を一度ならず発しました。
ファタハとしては、ハマスが変わる手助けをするべきだと思います。
パレスチナ人全体の闘争が一つの旗の下にまとまるように。
そうすればイスラエルも和平合意が
パレスチナ人全員の総意の下だと理解するでしょ」

ハマスがパレスチナの権力構造に加わってくることになれば、
ハマス指導者の暗殺を声高に叫んできたイスラエルは、
重大な選択を迫られるといいます。
(HIRSH GOODMAN;AUTHOR)
『ファタハだって自爆テロを行うアルアクサ殉教者旅団を持っています。
こちらとは話ができるけれども、あっちは駄目というのは偽善的です。
その為、ハマスを地下へ潜らせるよりも、
政治プロセスに建設的に関与させる方が良いかもしれないという考え方が、
初めて広がってきた訳です』

ハマスが政治に参加すると外国政府もジレンマに陥ることになります。

中東で最も大きな潜在的影響を受けるのはパレスチナの私生活かもしれません。
ガザ地区には世俗的なライフスタイルを楽しむ
裕福で様々なコネを持つパレスチナ人が多く住んでいます。
ハマスはパレスチナ社会をイスラム教化したいと考えているのです。
既にガザ地区でもハマスが影響力を持つ地域では
頭にスカーフを巻く女性が多くなり、
全てのレストランのメニューからアルコールが消えました。

反ハマス派はこれを大いに問題にしています。
無所属の HANAN ASHRAWI 女史は、
「パレスチナ人の心を巡る戦いですね。
どのような社会になるのか、どのような気風、精神が支配するのかが
掛かっています。
私達はイデオロギーと宗教に縛られた閉鎖された社会に逆戻りするのか
あるいは、現行の開放的で民主的な複数政党制の政治、
そして社会の発展を維持するのかどうかということです」

HOPE AND FEAR IN PALESTINE: (PBS)