イスラエルとパレスチナ、双方の報復の連鎖による犠牲者は、この3年で
3500人を超えているそうです。

 自爆テロによるイスラエル人遺族の多くは、パレスチナ過激派への徹底的な
報復攻撃を求めています。テロリストに屈服するなという遺族の声はシャロン
政権の強硬策を支える力の一つとなってきました。

 犠牲者の遺族達450人が報復反対を訴え続けてきました。
報復の連鎖を断ち切るには一人一人が相手への憎しみを乗り越えていくしか
ないと語りかけてきました。

 遺族の会の事務所の壁には、ラビン元首相の
「困難や痛みを伴う道だとしても、戦争より和平の道を望む」という言葉が掲げ
 られています。
 代表のレニー氏は、
「確かに現実は厳しい。和解・平和への希望はほとんど持てないと言っていい
 状態だ」

パレスチナ側でも二百人以上の遺族が武力攻撃に反対する声を上げてきました。

犠牲者の遺族の中から自爆テロ犯が生まれるという例も相次いでいます。

 21歳の娘が自爆テロを行った母親は、
「普通の子でした。
 娘を失うことはとても悲しいですが、パレスチナのためなので誇りに思います
 亡くなったイスラエル人の家族のことを考えると私以上に深い悲しみを抱いて
 いると思います」

 13歳の息子ユバル君を自爆テロで失ったメンドロビッチ氏は、息子の死後
十ヶ月以上経ってもアラブ人と口を利けない状態が続いていました。
「私はまだユバルの死を受け入れられずにいます。ユバルがいないという現実と
 格闘している段階なんです。報復や復讐が良い結果を生まないことはよく分か
 っています。私は彼ら(テロリスト)を私自身の手で殺してやりたいとさえ思って
 しまうんです」

 ユバル君の通っていた学校は、イスラエルに暮らすアラブ人の学校と行き来し、
合同授業を行っていました。
 普段交流のないユダヤ人の子供達とアラブ人の子供達が実際に会ってお互いの
ことを知るという授業です。
 死の直前のユバル君の作文では、
「イスラエル軍の攻撃は確かにテロを防いでいるかもしれないが、本当に良い
 やり方なんだろうか。パレスチナとの関係をどうしていくのか。西岸とガザに
 パレスチナ国家を認め、一緒にやっていくのか、世界から孤立してでもテロを
 防ぐために壁を作るべきか、僕らはどの道を選べばよいのだろう」


 イスラエル人の遺族の会の代表であるロニー氏は、19歳の息子を自爆テロで
亡くしています。氏は、メンドロビッチ氏に、
「いつまでも失望を抱えていると、その失望は憎しみとか怒りに変化するという
 ことなんだ。一人一人がそれを抑えていかない限り、この紛争は解決できない」

 パレスチナ人62人(14人は移動許可書を当日朝却下される)(20キロの
距離を検問チェックで5時間掛かる)とイスラエル人75人合同で一同に会する
午後1時から翌日まで18時間も対話集会が行われました。
 参加者達は、
「私はイスラエル人の遺族は全員、パレスチナ人のことを皆自爆テロをやるよう
 な人間で殺した方がいいと思っているものだと考えていました」
「逆にイスラエルでは、子供達は報道に影響されて、パレスチナ人はイスラエル
 人を殺したがっていると思い込んでいるんです」
「私達は向こう側の人達に恐ろしくて悪いことをする人だというレッテルを貼って
 いたかもしれません」

「いつも私達は紛争になると、イスラエル側、パレスチナ側という言い方をします。
 私は第三の側をつくることを提案します。第三の側は私達です。私達は双
 方を繋ぐ側の代表です。私達は皆痛みを持つ兄弟です。私達は皆苦しみを持つ
 兄弟です」
「相手に恨みがある筈の私達にさえできるのです。ここに一緒に座ることができて、
 話し合うことができるのです。これはとても大切なことです。」

 今後も継続することを決めました。


「私達遺族は自分達だけでこの血の応酬を止めることはできません。できるのは
 憎しみの連鎖を止めることができるかもしれないと示すだけです。双方で一緒
 に座って解決の方法を考え、話し合うことが可能であるということを世の中に
 示すことはできる筈です。それが私達遺族の使命です」(ロニー氏)

 メンドロビッチ氏は、ユバル君と一緒に合同授業を行ったアラブ人中学生17
人に会う依頼を受け、迎えられました。氏は、
「どうすれば虐殺と報復と暗殺を止められるか考えています。しかしまだ答えは
 見つかりません。答えはあなた達の中にあるのだと思います。無ければ未来に
 は絶望しかありません。ですから今日ここにやって来てあなた達と話をしたく
 なったのです」
 生徒達は、
「彼が平和を望んでいる人だと分かりました。アラブ人とかユダヤ人を区別しま
 せんでした」
「ユバルは言ったんだ。『僕が欲しいのは平和だけだ。アラブ人とユダヤ人の
 間でそれだけを話したい』って」
「あなたのような苦しみを持つ遺族がアラブ人との友好を語る姿を見て希望を持
 ちました。テロはとても残念ですが、その犠牲者の家族が逆に報復に反対する
 声を大きくしていくことに希望があるのではと思います」

 メンドロビッチ氏は、
「今ユバルはこう言っているかもしれません。父さん、皆の所へ行って、会って
 、話をして来て、そして分かってもらって。こんな争いはもう止めなければな
 らない。そうでなければここに希望はないんだ」

「イスラエルとパレスチナ:遺族たちの対話」:NHKスペシャル