「テロリストは誰? ガイドブック」グローバルピースキャンペーン
きくちゆみ(ハーモニクス出版)800円+税

映像作品「テロリストは誰?」(3500円)(ビデオ版/DVD版)120分の
完全シナリオ集と解説からなっており、映像作品の理解を助ける補助的書籍。

原題は、The War Against the Third World:第三世界に対する戦争

全10章からなり、1.キング牧師、2.元CIA高官の暴露証言、3.キューバ侵攻、
4.イランコントラ事件=ニカラグアへの介入、5.スクール・オブ・ジ・アメリカ
ンズ:暗殺者学校、6.イラクへの経済制裁、7.東チモールへの侵略、8.パナマ侵
攻、9.元米司法長官ラムゼークラークの演説、10.米反戦活動家という構成に
なっている。

主にアメリカの第三世界への軍事的介入について描かれている。
第三世界各地の数多くの一般市民達の虐殺死体がこれでもかと映し出される。
有無を言わせない圧倒的な説得力がある。

 第二次大戦後からソ連圏崩壊までの約半世紀の間は、東西冷戦の時期であり、
米ソ両超大国による世界の分割支配の時代であったと思う。
米ソ両陣営による相互角逐、これが世界の根底にあったと思う。
第三世界は米ソ両陣営の『草刈場』となった。第三世界政治指導者の一部は、
両陣営を両天秤に掛け、両陣営からしっかり援助等を引き出すというしたたかさ
も見せた。

米ソ両陣営による第三世界への、経済的・政治的・軍事的介入。
その相互の対立・駆け引き。

 この作品は、アメリカによる第三世界への介入を描いている。
その限りでは正しい。それも事実であり、真実の半面である。
しかし、他方のソ連側の介入を忘れてはならない。
1960年代、フルシチョフの平和共存戦略に基づき、後進国の「民族民主国家」
樹立を果たしてきた。それをことごとくCIAにより転覆させられてしまった。
(インドネシア、73年のチリのアジェンデ政権倒壊)
この『反省』に基づき、70年代後半、ソ連共産党政治局イデオローグ・スースロフ
の『後進国革命戦略』の緻密化によって、『革命の輸出』を激化させた。
経済援助等で友好関係を構築した第三世界の軍部の若手エリートをソ連本国で
思想教育し、ソ連の軍事顧問団を後ろ盾にし、KGBや場合によってはキューバ兵
を実働部隊として、軍事クーデターによって、赤色政権をデッチアゲた。
頭のてっぺんだけが赤いことから、『丹頂鶴革命』と言われた。
(アンゴラ、ザイール、エチオピア、南イエメン、アフガニスタン等々)

 ソ連圏側からの『革命の輸出』によって、アメリカは対ソの世界支配戦略を
ズタズタに寸断された。
つまり、80年前後は、むしろソ連圏側が<能動的>であり、アメリカは<受動的>
でさえあった。

 この<米ソ代理戦争>という要素に、更に<中ソ代理戦争>という要素も加わ
り、より複雑な様相を呈した。
 ザイールやアンゴラの内戦では、「反覇権主義」を掲げる中共派は、CIA派と
協同してソ連派の民族解放戦線と闘いさえした。
 そして、「ベトナムのカンボジア軍事侵略」、「中国のベトナム軍事侵攻」という
「社会主義国家間戦争」という事態さえ現出した。

 アメリカは一人でシャドウボクシングを闘ったのではない。
ソ連圏との真剣勝負・死闘を闘ったのだ。
自らの政治支配体制を保持し、相手の政治支配体制を打倒するために、
体制と体制、イデオロギーとイデオロギーの相互に生存を賭けた闘いだった。
相互にパンチを応酬し合い、ガードし合い、フェイントし合い、ボディー
ブローをかまし合ったのだ。

 その片面だけを、その全てと考えれば、それはたちどころに誤謬へと転化して
しまう。
 あくまでも、米ソ両陣営による相互角逐という総体的な把握の上に立ち、
その片面を描いたものと受け止める限りで、この作品は正しい。


 ソ連圏が崩壊して以降、アメリカは一超大国・ユニラテラリズムとなった。
ソ連圏との経済的・軍事的・政治的対応という要素が激減した。
アメリカは、第三世界の市民を虐殺することが<目的>ではない。
自らの政治体制を維持し、その経済的等の利害を貫徹・維持することこそが
<目的>であり、それを貫徹してきた。

 後進国の政権は、ソ連圏に支援された民族解放戦線等との対抗上、強権的軍事
政権が多かった。強権的政権は、反政府勢力を増大させるし、国際世論の反発も
招く。
従って、自らの<目的>実現にとっては、強権的政権よりも、むしろ、選挙で
選ばれたソフトな『民主的』政権の方が、安定する。
 『社会主義崩壊』という事態を受け、<民主主義・自由経済>という自らの
特定イデオロギーをあたかも『普遍的』イデオロギーであるかのように堂々と
押し出している。
 これが全地球を覆う<グローバリゼーション>として現象している。
 

「テロリストは誰?」