世界の半数の人達が一日二百円余りで暮らしている中で、
EUの国々では牛の飼育に一日二百円余りの補助金が支払われています。
EUの多額の補助金が発展途上国の新たな飢えと怒りを引き起こしています。

ドミニカ:EUの安い粉ミルクの為、地元の酪農農家は価格競争に負ける。
補助金を受けているのは酪農家だけでなく、乳製品メーカーも粉ミルクを
発展途上国に安く輸出する為に補助金を受けています。
このメーカーは昨年13億円の輸出補助金を受け取り、生産コストより安く
発展途上国に輸出されています。
EUの補助金制度によって大儲けしている企業がある
ドミニカの農民は、この粉ミルクを「征服する牛」と呼んでいます。
ドミニカでは二万人の酪農家が仕事を失いました。
年間約6500億円の補助金を受けるEUの粉ミルクに太刀打ちできません。
EUの発展途上国を支援する事務局はドミニカに約26億円の資金援助を行いました
その一部は高品質の牛乳を大量生産する技術の普及に使われます。
この援助によってドミニカでは牛乳の生産量は二倍に増えました。

「干ばつなどの災害に悩まされ、インフラが整わない環境で農業を続けようと
 している人達から市場までも奪っているのです。
 EUの資金を投じてドミニカの開発援助に協力するのは素晴らしいことです。
 しかし一方でドミニカの農業を破壊しているとしたら援助は何の意味もなく
 なってしまいます」
(国際食物政策方針研究所ペール・ピンストロップ・アナセン)

EUの農民達は補助金制度の継続を訴え、ロビー活動を展開してきました。
農産物の生産は過剰となりました。過剰生産された作物が廃棄されました。
高品質の農産物が次々とブルドーザーの下敷きとなっていきます。
多額の税金が注ぎ込まれた結果、大量の農産物が捨てられていることに
怒りの声が上がりました。
補助金の廃止を巡る論議を避ける為に、EUは余った農産物を発展途上国へと
安く輸出するようになります。

「EU各国は国内の対立を避けることだけを優先しました。
 発展途上国に対する配慮はまるでありません」
(ドミニカ乳業協議会)

EUの総予算の約半分が加盟国の農業補助金として使われています。
5兆円以上もの補助金がどのように使われているのか、その詳細は謎に包まれて
います。
「こればかりは、政治的な謎なんです」
(欧州委員会 開発・人道援助担当ポール・ニールソン委員)

EU加盟国の農業関係者は一人当たり年間約260万円の補助金を受け取っています
欧州委員会では、食肉、牛乳など30品目について、品目ごとに委員会が開かれて
います。
補助金制度のお陰で世界有数の砂糖輸出国になっている。

その犠牲になっている人達がいます。
「補助金制度の弊害は学校の子供達にまで及んでいます。
 社会の底辺にいる者までそのしわ寄せがきています」(南ア学校長)
南アのこの地域一帯ではサトウキビを栽培しています。
この学校の子供達の両親の殆どが砂糖生産で得られる収入で生活しています。
EUの三分の一の価格で砂糖を生産できます。
昨年、南ア政府の政策で黒人家族約五万世帯に畑が分配されました。
EUの安い砂糖価格の為に、世界中で砂糖価格が下落

「昨年、世界で六歳以下の子供達一千万人が飢えと栄養失調で亡くなりました。
 その親達が農業で生計を立てられたら、多くの子供が死なずに済んだ筈です」
発展途上国では最大の死亡原因は貧困です。
EUは南ア産砂糖に140%の関税を掛けることを決めました。

「EUの農家の平均収入は、社会平均より低いんです。ですから、ただ補助金を
 貰っているだけだと農家を責める訳にはいきません」
(欧州委員会 農業・漁業担当フランツ・フィシュラー委員)

問題は、EUの産業の中で農業だけに保護を続けるべきなのかどうかです。
他の産業は保護を受けることなく、コストの安い発展途上国との競争にさらされ
ています。
農業関係者だけが特別な保護を受けています。

過剰生産された農産物の輸出にEUは年間約四千億円を投じています。
これは発展途上国の援助額とほぼ同額です。
ガーナ政府はEU産の鶏肉と米にわずかな関税を掛け、貧しい農民を保護しようと
しました。
「輸入する農産物に関税や割り当てを課したり、自国の農業を補助金で保護して
 はいけないと、先進国や国際開発機関、資金援助国にそう説得されてきたん
 です」(ガーナ共和国貿易相アラン・キェレマテン)

 貧困から抜け出すには自由貿易に加わるべきだとして、米とEU各国はガーナ
政府に対し、農民に補助金を与えたり、関税を掛けたりしないよう説得してきま
した。その一方でEU加盟国は農民を多額の補助金で保護してきたのです。
国内養鶏所は壊滅。
20年前までガーナでは米は全て国内産でまかなっていました。
今や国内には輸入米が溢れ、国の農業は衰える一方です。
米作農家は没落し、若者は仕事を求めて首都に出るも、仕事がない、、、
「昔は豊かだった」と老人は語ります。

ガーナ政府は予算の半分を米やEUからの援助に頼っています。
政府は欧米への依存を断ち切る為に、以前の自給自足の体制を取り戻そうと
しました。ガーナ政府はEU産の農産物に関税を掛け、自国の農業を保護しようと
しました。
「関税を撤廃するようEUから圧力が掛かりました」
(ガーナ共和国貿易相アラン・キェレマテン)
ガーナは、EU産の鶏肉や米の輸入に関税を掛けるならば、資金援助を停止する
という欧米諸国からの通告を受けたのです。
「私達は両手を縛られているのも同然です。自分達を守ろうとしても圧力を掛け
 られ、仕方なく欧米諸国の援助を受けなくてはならない状況に追い込まれて
 いるんです」(ガーナ共和国貿易相アラン・キェレマテン)

「EUの農産物の輸出を増やす為に、私達がガーナ政府に関税を引き下げるべきだ
 と言っているとしても問題ではありません。関税障壁を緩和するしないは
 ガーナが決めることです」
(欧州委員会 農業・漁業担当フランツ・フィシュラー委員)

 怒りと挫折感が渦巻く巨大なスラム街
ビン・ラディンと貿易センタービル爆破のポスターが貼ってありました。

「ヨーロッパに何百万人という不法滞在者がいる理由がお分かりでしょ?
 農業で生活していけたなら、彼らは故郷を離れずに済んだんです」

「栄養失調で我が子を失うような非常に貧しい状況に置かれると、人はどんな
 ことでもやろうとします。そうした人々が貧困から抜け出せるよう援助をすれ
 ば、結局はEUの為にもなるんです。ビン・ラディン率いるテロリスト集団が
 発展途上国の若者を勧誘しても、豊かならば誘いに乗るようなことはないで
 しょう。今すぐEUがやるべきことは、国際社会を不安定にする要因をなくす
 ことです。それは貧困であり、飢えであり、絶望です。しかし実際は何も行わ
 れていません」(国際食物政策方針研究所ペール・ピンストロップ・アナセン

「昨年は自然災害や家畜の疫病など、ヨーロッパの農業関係者は苦しい状況に
 ありました。そのことを忘れないでいただきたいものです」
(欧州委員会 農業・漁業担当フランツ・フィシュラー委員)

 モロッコは冬の期間にEUに定められた量のトマトを輸出することが認められて
います。EUがこの割り当てを10%増やしたことに農民達が抗議しています。

「EUをはじめとする先進国の人々に、これだけは伝えたいと思います。
 先進国がガーナの何百万人という貧しい人々を更に追い詰め、苦しめている
 んです」(ガーナ共和国貿易相アラン・キェレマテン)

「選択は二つに一つ。発展途上国の農産物を輸入するか、人々を労働力として
 受け入れるかです。そのどちらも拒否するならば、高い代償を支払うことに
 なるでしょう」(国際食物政策方針研究所ペール・ピンストロップ・アナセン

「EU農業が発展途上国を圧迫する」:BS世界のドキュメンタリー