「きょうの世界」NHK(2006.6.6)

「莫大な石油が眠るカスピ海
過激なイスラム原理主義が治安の悪化をもたらし、
麻薬の流出が深刻な問題になっています。
隣接するロシアと中国は互に連携を強め、
この地域への影響力を強めています。
一方でアメリカは軍の撤退を迫られるなど影響力の低下に直面。
大国同士のせめぎ合いが中央アジアを舞台に繰り広げられています。
六月上旬、中央アジア四か国外相が東京に招かれました。
日本もこの地域の発展により積極的に関わっていく意思を示したのです。

二年前、日本主導で、中央アジア+日本という枠組みが作られました。
今回東京で行われた外相会議は二回目です。

キルギスのバキーエフ大統領
(権平恒志記者のレポート)
「先月首都中央広場で過去最高の二万人の抗議集会
経済が低迷するキルギスでは
バキーエフ大統領が自らの親族を権力の中枢に据えるなど
政権内で腐敗や汚職が蔓延していると批判が高まっています。
『悪くなる一方だ。全て役人の汚職のせいだ』
『指導者は変わったが体質はそのままだ。
生活が変わらないなら、こんな大統領など要らない』
一年前は新政権に大きな期待を寄せていた市民が、
今ではバキーエフ打倒を訴えるまでになりました。
インフレで生活は厳しさを増し、希望は失望へと変わりました。
『大統領は革命が起きたこの広場で全てを成し遂げると約束しました。
その言葉に期待したのですが、全て裏切られました』

フェルガナ盆地で治安が急速に悪化
イスラム過激派の活動が活発化
麻薬密輸も横行
5月12日には武装グループが、キルギスとタジキスタン国境の検問所を襲撃

キルギス首都近郊のマナス空港:米軍が駐留
バキーエフ大統領は、今年二月基地使用料を70倍に値上げ要求

(シェクシェンクーロフ外相)
『我が国はまだ弱い国会です。
多方面にバランスを取った政策を続ける必要があるのです』

石川一洋モスクワ支局長は、
「テロとの戦いを軸にした列強が協力するという側面が、
完全に無くなったとは言いませんが、
再び覇権争いの舞台になりつつあります。
米露の関係では、露よりも米が旧ソビエト諸国での民主化を
推進しようとしたことに対する露側の反発が大きな要素となっています。
もう一つより重要なのは、中国の要素です。
中露は上海協力機構の枠内で協力しています。
しかし露は、中国が21世紀の超大国になるとみており、
その影響力が拡大することへの強い警戒感を持っています。
上海協力機構という多国間の枠組みは、
ある面でその中に中国を入れることで、
中国の影響力拡大を抑止できるという
ロシア側の巧妙な思惑もあるものとみられます。

(シャドラエフ教授:地域経済研究所)
『ロシアは対米関係が冷える中、中国との協力を選択せざるをえません。
さもなくば、中央アジアに対してロシアは影響力を失ってしまいます』

ロシアの中央アジア戦略は攻めの政策のようにもみられますが、
こちらでみていますとむしろ自国の安全保障を考えた守りの戦略だと言えます。
それは中央アジアは長く、ロシアの柔らかい脇腹と言われるように、
イスラム過激派の浸透やあるいは中央アジアでの騒乱は
直ちにロシアの安全保障を危うくします。
つまりそこでの影響力を維持することによる利益というよりも、
そこでの安定がロシアの安全保障に直接結び付くと考えているのでしょう。

中央アジアと一言で言われますが、重要なのは、その多様性です。
外交でも決して一様ではありません。
今ロシアとの関係を強化しているのはウズベキスタンです。
カザフスタンは欧米との良好な関係を維持しつつ、
同時に中国との関係強化が目立っています。
エネルギーを軸としたバランス外交と言えます。
ロシアと同盟関係を結ぶタジキスタンにしても、
国境警備ではアメリカの支援を受けるなど、
したたかな外交を続けています。
中央アジアといいましてもそれぞれの国ごとに、
アメリカ、ロシア、中国との関係は必ずしも一様ではありません」


瀬川明成記者
中央アジア+日本の外相会議
(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アフガニスタン)
地域の共通の課題への取り組みをを行動計画としてまとめました。
・アフガニスタンからの麻薬やテロリストの流入を防ぐ為、国境管理を強化
・中央アジアからアフガニスタンを経由してインド洋に繋がる輸送ルートの整備

石川一洋支局長は、
「ロシアは、日本は協力できるパートナーだと考えているでしょう。
日本は米中と異なり、覇権という面での争いには関与しないからです。
ただ少し気になるのは日本外交の継続性という問題です。
97年にはロシアとシルクロード外交を標榜
日本の政権が交替しようと、戦略的な関与は決して変わらないという
強い意志がいまひとつ感じられません。
覇権は求めずとも、この地域に日本が関与することで、
対ロシア、対中国外交でも有効です。
特に今回アフガニスタンをオブザーバーとして招いた訳ですが、
今後中央アジアからアフガニスタンやパキスタン、インドに向かう
南への輸送ルートを日本が支援することは、
一つは中央アジア諸国の利益に大変叶うことであると思いますし、
同時にロシア、中国も大きな関心を抱いています。
特にロシアは天然ガスのパイプラインの南ルートに対しては、
強烈な警戒感を抱いていますが、同時にロシアにとってもそのルートは、
成長するインド市場への直接のルートともなるだけに、
日本にとっては、大変面白い外交カードともなると思います」

「激変£央アジアと日本」:NHK(2006.6.6)